第7話 期間限定大特価!1


 数学はそれなりに得意だが、英語は壊滅的かいめつてきだ。


 残酷ざんこくにも開示されたおのれのパラメータを見ながら、俺はそんなことをぼんやり考えていた。


あきらっ!!」


 聞きなれた声に呼ばれ、俺は通知表から顔を上げる。


 今日は七月十九日の金曜日。


 俺の通う私立満谷高校しりつみつたにこうこうは午前中に授業があり、午後からの終業式を耐え、長めのホームルームで担任からの有難いお言葉を頂戴し終えることで、ようやく夏休みへと入る。


 夏休みの開幕に湧く教室の片隅かたすみ


 帰宅部の俺はそのまま夏休みに直行する予定だったが、俺の視線の先で、女子集団から別れた繊月せんげつ瑠衣るいがこちらに手を振り近づいてきた。


 俺は通知表を見られないよう、鞄にしまってから席を立つ。


 瑠衣は俺の幼馴染で、俺の高校生活で唯一話をする女のクラスメイトだ。


 小柄でセミロングの茶髪を振りながらぱたぱたと走ってくる彼女は、人によってはぶりっ子だと思われて印象が悪かったりするが、付き合いの長い俺は、それが完全なる国産天然モノであることを知っている。


「なんか用か?」


 俺の元まで走ってきた瑠衣は、大きな瞳で俺を見上げ、ニヤリと笑った。


「実は明に耳よりなお話がありまして」


胡散臭うさんくさい始まりだな」


「そう言わずに聞いてよ。私も勉強させていただきました。期間限定大特価! 今なら三ヵ月分の洗剤と電子辞書とデジタルカメラも付けて、ななな、なんとっ!」


「――んなモンいるか。さっさと要件を話せ」


 夏と冬ぐらい違う会話の温度差に、瑠衣はやれやれと首を振る。


「これだからノリが悪い人はいけないねぇ。〝お高いんでしょう?〟ぐらい聞けないの?」


「……用事あるから、また今度な」


 俺は瑠衣を避けて歩き出そうとしたが、そんな俺の手はがっしりと掴まれる。


 俺が思わず立ち止まれば、瑠衣が俺をにらんでいた。


 男女の違いというか、身長差もあるし、まるで怖くはないけれど――今後のことを思うと厄介そうだな、とは思う。


「……でも、お高いんでしょう?」


 俺の言葉に、瑠衣は相撲の張り手のように片手を突き出してきた。


「五万円ポッキリになります」


「本当に高いのかよ!?」

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