第8話 期間限定大特価!2


 俺の言葉に、瑠衣るいは子供のように笑った。


 まるで高校生には思えない、純粋で悩みの無さそうな奴だなぁ、と思う。


「でも、あきらにはそれだけの価値がある話だと思うよ?」


「……どういう意味だ?」


「シノちゃんの話なんだけど、聞きたくない?」


 少しだけ、興味が湧いた。


 瑠衣の言うシノちゃんとは、東雲しののめ乃々華ののかのことだ。


 東雲は瑠衣とは正反対な性格の、いつも落ち着いていて勉強のできる美人の優等生。


 東雲も瑠衣と同じでクラスメイトだが、そこまで俺と接点があるわけではない。


 なぜかは知らないが、瑠衣と東雲は仲が良く、いつも席をくっつけて昼飯を食べている。


 そういえば東雲も帰宅部だと思うが、すでに教室に姿はなかった。


「ついて来て」


 他のクラスメイトには聞かれると不味い話だろうか?


 俺は瑠衣に連れられて教室を出た。


 人気のない階段の踊り場で、それでも声を抑えて瑠衣は続ける。


「シノちゃんなんだけど、退学するんだって」


「……なんでだ?」


「詳しくは話してくれなかったけれど、病気みたい」


 話の内容に比例して、瑠衣の語尾も弱くなる。


「夏休み明けからは登校しないって」


「……急な話だな」


 東雲が病気というのは初耳だし、調子が悪そうな事にも気づかなかった。


 しかし、それは俺が知らないだけで、前々から決まっていた事なのかも知れない。


 でも、それも不思議な話だ。


 今日のホームルームはいつも通りで、東雲の送別会みたいなモノは無かった。


 ……病気が原因の退学なのに、クラスメイトに連絡も無いなんてありえるのか?


「それでね、シノちゃんを〝まなさま〟に呼び出してあるの」


〝学び様〟とは、満谷高校の校舎裏に建てられている小さなやしろのことだ。〝学び様〟は勉学の神様とあがめられており、受験シーズンでは他校からも参拝者が来るほどには有名だったりするが、普段は誰も近寄らない広めな裏庭でしかない。


 そして、俺は瑠衣の言葉に眉を寄せていた。


 なぜなら、話がまるで見えなかったからだ。


 瑠衣が東雲を〝学び様〟に呼び出している意味も、その話を俺にする意味も分からない。


 疑問だらけの俺の前で、何故なぜか瑠衣も同じような顔をしていた。


「明には、シノちゃんに話さなきゃいけないことがあるでしょ?」

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