第14話 幽霊が視える、理由2


 東雲しののめはまたしても俺の言葉にきょとんとして、またたきを繰り返している。


 肯定こうていにも否定ひていにも取れない表情だが、俺はそのまま話を続けることにした。


「俺が伝えたかったのは、瑠衣るいの猫についてだ」


「ああ、ゴマちゃん」


「そうそう、ゴマちゃん――って、東雲は名前を知ってたのか?」


「少し気になってね。ルイルイに話は聞いたわ」


 ゴマちゃんというのは、瑠衣の家にいた飼い猫だ。


 俺と瑠衣は家が近く小学校からの仲だが、ゴマちゃんは俺が知り合うよりも先に瑠衣の家で飼われ始めた猫だった。


 複雑な家庭環境の瑠衣にとって、ゴマちゃんは姉妹のような関係だったのだろう。


 そんなゴマちゃんが亡くなったのは五年ほど前。


 ゴマちゃんは大往生だいおうじょうで、それは仕方のない事だったのだけれど、その時の瑠衣の落ち込みぶりといえば、目を背けたくなるほどに悲惨だった。


「ゴマちゃんはめちゃめちゃ人懐ひとなつっこい猫だったんだよ。それは瑠衣の守護霊になってからも相変わらずでさ。その、教室でさ? 東雲はいつもゴマちゃんの相手してくれただろ?」


 恐らく、瑠衣と東雲が出会ったのは、高校に入学してからだろう。


 つまり、東雲が出会った頃にはゴマちゃんはすでに亡くなっていたけれど、そんなゴマちゃんの霊と遊んでくれていた東雲を、俺は教室で何度も視ていた。


 俺の言葉に東雲はうなずき、口を開く。




「つまり、獅子堂ししどう君も、その、視えるのね?」




 俺の経験上の話だが、こういう話を他人とすることは滅多にない。


 幼稚園や小学生の頃に〝幽霊が視える〟って話す子が多いという話はよく聞く。でも、年を取るにつれて〝幽霊が視える〟と自称する人は少なくなる。あの話の根拠として、〝人の気を惹きたくて嘘をついていたからだ〟と言われることがあるが、俺はそうは思わない。


 東雲も言っていたが、他人と違うモノ、本来は視えないはずのモノを視てしてしまうというのは、自分自身も他人とは違っているのだと自覚させられてショックなのだ。


 なぜなら、頭から嘘つきだと眉をひそめられることだってあるし、場合によっては拒否され、話だけが独り歩きすれば、初対面にも関わらず嫌われることもあるだろう。


 それに、他人には視えないのだから、視えていることを隠すのは容易だったりする。


 つまり、大人になるにつれて視えることを公言する人間が減るのは、本当に視えていたとしても、当たり前の事だったりするわけだ。


「俺、猫が苦手でさ」

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