第4話 プロローグ4


 鬼がここまで理性的に考える頭を持っているとは思わなかった。


 あやかしと戦うというよりも、化け物じみた人間と戦うと考えるべきか? 


 鬼が近づいたことで、月明かりにその身体が透けて視える。


 鬼の体内に、鬼の媒体となってしまった巫女服姿の女が視える。


 苦悩を訴えるように顔を歪めているが、つまり彼女――せんは生きている。


「お前の弱点を俺は知っている」


 獅子堂は【鬼殺し】の切っ先を鬼に向ける。


「殺されたくなけりゃ、千を返せ」


 その言葉に、鬼はさらに笑った。


「俺と千は一心同体。千はもう目覚めることはない」


「……やってみなけりゃ、わからねぇだろうが!」


 獅子堂は地面を蹴り、鬼へと斬りかかる。


 獅子堂の動きもまた、鬼と同様に化け物じみていた。


 霊力を筋肉へ流し込むことで身体能力を上げる【練磨れんま】と呼ばれる技だ。


 それは戦闘が主な霊媒師にとって初歩的な技術であったが、基礎動作を極めることが最も実力差を生むことを、獅子堂は経験上知っている。ただ走るだけであったとしても、他の霊媒師と獅子堂には明確な差が生まれるほどだった。


 鬼の首を【鬼殺し】が捉えた刹那せつな、鬼は右腕を振り上げ、爪によってやいばを弾いた。


 ――かち合った刀から、悲鳴に似た甲高い音が響く。


 白い刀身は、鬼の黒い爪によって中腹ほどで折られてしまった。


 鬼が勝利を眼前に笑う。


「そのなまくらで俺を殺すなど」


 それでも、獅子堂は止まらなかった。


 弾かれた衝撃を逆方向へ利用し反回転。


 反対側から再度、鬼の首に狙いをつけた。


 反応の遅れた鬼の首を、短くなった刀身で捉え――斬る。


 しかし、


「硬いな」


 獅子堂の全体重を乗せた渾身の一撃は、無防備な急所を狙ったにも関わらず、刃先が数センチめり込むに過ぎなかった。


 あやかしの中でも実体である人間を媒体とする鬼の肌は、正に堅牢無比けんろうむひ


 全力でも、この有様か。

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