第62話 やっぱり変わってるわね


 二人で俺の借りている客間に戻る。


 座布団に座って対面すると、東雲しののめが先に口を開いた。


「ルイルイを連れ戻してくれて、ありがとう」


「なんで東雲が礼を言うんだよ?」


 俺の疑問に、東雲は薄く笑う。


「私もせんさんから聞いて驚いたんだけれど、仲の良さそうな親子なのに、ルイルイとまくらさんの親子喧嘩って、昨日の夜が初めてだったらしいのよね。……ルイルイと喧嘩して出て行かれた後のまくらさんは、それはもう落ち込んでね。正直に言うと、面白いくらいだったわ」


「……まくらさんも瑠衣るいも、いろいろ考えてるんだろうな」


 やはり、仲が良くて本当の親子に見える二人にも、遠慮えんりょしている部分があるんだろう。


 でも、それは本当の家族だって同じだと思ったりもする。


 血のつながりよりも、家族のことを想う気持ちの方が大切だろ?


「素直に言うと、私は二人の仲を壊したくなかったのよ。……ルイルイはね、昨日の夜に目覚めた私にも激怒した。〝どうしてそんなことをするんだ〟ってそれはもう信じられないぐらいに怒り散らしてね。……私は結局のところ、自分のことしか考えてないのかも知れないわ」


「それは違うだろ」


 項垂うなだれていた東雲が顔を上げ、俺は言葉を続ける。


「自分のことしか考えてない奴が、人のために命を投げ出せるわけねぇよ。俺は東雲と瑠衣の関係に詳しくないけどさ? そんなことをできる相手がいるのって、正直に言って羨ましい。素直に尊敬するし、そんな相手がいたら、もっと楽しく生きられるんだろうなって思うよ」


 東雲は俺をまっすぐに見ながら、目をしばたたかせた。


「……獅子堂ししどう君って、やっぱり変わってるわね」


「東雲の方が変わってる。……分かりにくいだろうが褒め言葉だぞ?」


 俺の言葉に、東雲が笑顔を見せた。


「そうかもしれないわ」


 軽く笑い合う。


 こういう関係も、楽しいかもしれない。


「私って変わってるから、ルイルイが初めてできた友達だったのよ」

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