第三章 一流の主人公って奴

第61話 カッコイイでしょ?


 目が覚めると、木目調の天井が見えた。


 小鳥のさえずりが縁側えんがわから聞こえてきて、障子しょうじ越しに朝日が差し込んでいることに気づく。


 布団から手を伸ばしてスマホを開くと、まだ朝の六時だった。


 緊張していたせいか、かなり早く起きてしまったらしい。


 瑠衣るいの家に泊めてもらうのは、五年ぶりぐらいだった。


 昨日の夜に話し合った後、俺はこの客間にそのまま泊めてもらったのだ。


 俺は机の上にある【鬼殺おにごろし】を見つめる。


 東雲しののめを助けるために何をするか聞いていなかったが、今日から大変なのは間違いないだろう。


 俺は【鬼殺し】をポケットに入れ、顔を洗うために洗面台へと足を向けた。


 昔から思っていたが、瑠衣の家は大きい。


 母屋おもやの一階だけでも十部屋ぐらいはあるだろうし、まくらさんと瑠衣の二人暮らしでは使いきれずに物置として使われていたり、本を収めてある書斎しょさいがあったりと便利そうではある。


 廊下の突き当りを曲がった所で、洗面所に先客がいることに気づいた。


 そいつはタオルで顔を拭き、背後にいる俺のことをかがみしに気づいたらしい。


 振り返った拍子に腰まで届く黒い長髪が広がって、俺の視線はその顔に吸い寄せられる。


「おはよう、獅子堂ししどう君」


「し、東雲?」


 ぽかんと見つめる俺に、東雲は眉を寄せた。


「何よ? 私の顔に何かついてる?」


「……角なら、生えてるな」


 東雲のひたいには、黒い角が生えたままだ。


「カッコイイでしょ?」


 東雲はそう笑って、顔を拭いたタオルで鬼の角を拭いている。


 おどけるその仕草に、俺は薄く息を吐いた。


「……元気そうで良かったよ」


「まぁね。これは私の望んだことで、後悔なんてしていないもの」


 東雲の態度は昨日と変わらなくて、俺は少しというか、かなり拍子ひょうしけしていた。


 東雲はすでに、自分の死を受け入れているのだろう。


「朝食前に二人で話したいから、少し時間をもらえるかしら?」

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