第60話 その名の通り


獅子堂ししどう霊媒師れいばいし協会でも上から五本の指に入る使い手じゃったが、恐らく、鬼に勝てないことに感づいておった。どこまで考えていたのかは分からぬが、育ての親である自分の死であれば、わらわの心に訴えかけられるだろうと算段しておったのは間違いない。獅子堂は鬼と戦う上で、最初から自分をおとりにするように動いておったからのぅ」


 千さんは天井に向けていた視線を俺に向けた。


「ここまで妾が話したのは、その戦いの中で不自然な点があったからじゃ」


 千さんは机の上の【鬼殺おにごろし】を見つめる。


うわさたがわず、圧倒的なまでに鬼の力は獅子堂を凌駕りょうがしておった。結果から見れば、鬼には小細工などせずとも獅子堂を正面から殺すほどの力があった」


「……鬼は、獅子堂さんの力を警戒していたということですか?」


 まくらさんの問いに、千さんは悩むようにうなった。


「最初に獅子堂と鬼が対峙した時、鬼は慢心しておった。正面から獅子堂に飛び掛かり、獅子堂をそのまま殺そうとした。その牙が獅子堂を捉える刹那せつな、鬼は獅子堂が背に隠した【鬼殺し】の存在に気づき飛び退いた。圧倒的な力のあるハズの鬼が、【鬼殺し】を警戒したのじゃ」


「つまり、どういうことだ?」


 俺の問いに、千さんは笑う。


「詳しいことは妾にもわからんがの? つまるところ【鬼殺し】は、その名の通り、鬼を殺せる可能性がある刀ということじゃ」

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