第93話 リスクヘッジ2


『もしも――』


「母さん、教えて欲しいことがある!」


 すぐに出てくれた母さんの言葉をさえぎり、俺は言葉を続ける。


「時間が無いから、端的たんてきに答えてもらっていいか?」


『……いいわよ』


「母さんが生きてきて、衝撃的だったことって何がある?」


『……お父さんが死んじゃった時と、明が生まれてくれた時かしら?』


 俺は死ぬ気はないし、今から小作りはハードルが高すぎる。


 それじゃ、駄目だ。


「他にも何かないか!?」


 俺の言葉に、母さんはため息をついた。


『笑わないって約束できる?』


「……どんな答えでも笑わないって約束する」


 こちらには笑うなと言ったくせに、母さんは笑いながら答えた。


『お父さんが、私を選んでくれたことよ』


 その答えに、俺は納得した。


『……参考になりそう?』


 正直に言うと、自信は無かった。


 でも、


「参考にはなった。ありがと」


 俺はスマホをしまって、青信号を確認したところで、


「はずき?」


 荷台にはずきがいないことに気づいた。


 はずきは俺のために、大切な事を伝えるために出て来てくれたんだろう。


「はずきも、ありがとな!」


 視えなくても、はずきは俺を見守ってくれているのだろう。


 俺は改めて自転車で走り始めた。


 この脚力は、俺の数少ない自慢だけれど、今はそれだけじゃない。


「間に合えぇぇえええええええええええええ――――っ!!」


 色んな思いを乗せて、俺はひたすらに走った。

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