第89話 凄く悪い予感2


「……つまり、何が言いたいんですか?」


 俺は思わず聞き返していた。


 何か、凄く悪い予感がする。


「そこから考えるなら、まくらは小娘の儀式を、すでに行っておる可能性がある」


 せんさんの言葉に、東雲しののめと布団の中で交わした会話を思い出した。


 どこか前提の噛み合わないあの会話。


 まだ可能性が残っているハズなのに、昨日の夜、東雲は諦めきっていた。


 つまり、もう自分は助からないと、すでに東雲は知っていたのか?


 だからこそ、東雲はもう〝最後〟だと言ったのか?


 ……どうして、俺はそこまで考えられなかった?


 結論に辿り着き、自分の馬鹿さ加減に、どうしようもなく苛立いらだった。


 どこまで俺は、ご都合主義に考えていやがるんだ?


 俺は居ても立っても居られず、思わず走り出そうとして、


「待て!」


 千さんに肩を掴まれる。


「まだ、まくらがだましたと決まったわけでなく、素直に何かトラブルが起きている場合も考えられる。そもそも、小僧がヒントもなしに小娘の居場所を探し出すことなぞ不可能じゃ!」


「でも、だったら、俺はどうすれば!?」


「……落ち着いて、よく聞け。あの儀式を執り行う場合、神社の鳥居とりいを利用するのが定石じゃ。これは神域を結界代わりにして、鬼が暴れた場合に被害を減らすための処置なのじゃが、周りに人がおる場所では、一般人に危害を加える可能性がある。つまり、ちた神社などが儀式を行う場として確率が高いのじゃ。さらに候補を絞るすべわらわは知らぬが、その条件に当てはまる場所など多くはなかろう」


 千さんはニヤリと笑った。


「妾がひとっ走りして必ず見つけ出す。小僧はその間に、鬼を倒す算段でも考えておれ」


 くやしさを感じながらも、素直に千さんに任せるしかないのだと気付く。


「……お願いします」


 俺の言葉に、千さんはうなずく。


「それと、これは鬼と戦う小僧が持っておくがよい」


 千さんは畳の上で痙攣けいれんしている自らの〝右手首〟を拾い、差し出してきた。


「文字通り、手を貸してやる。〝東雲しののめは死なないし、死なせない〟ためには必要じゃろ?」


「き、聞いてたんですか!?」


 思わず顔が赤くなる。


「くくく、妾の地獄耳を舐めるでない。早う受け取れ」


 俺が手首を受け取ると、千さんは笑う。


「小僧は小娘を救う方法だけを考えておれば良い!」


 そう言うや否や、千さんは疾風しっぷうのような速さで道場から出て行った。

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