第101話 鬼を殺せる刀6


 それも、聞いてたのかよ。


「うるせぇよ、馬鹿ばかがっ!」


 鬼がせんさんの体からつのを引き抜くと、千さんの体は石畳いしだたみに倒れた。


「鬼なのに人間をかばうとか馬鹿じゃねぇのか? こんな小僧を見捨てれば俺と対等に戦えたかも知れねぇってのに、本当に馬鹿しかいねぇなぁっ!?」


 動かない千さんの背中を見ながら、俺は立ち上がる。


 先ほど千さんに突き飛ばされた時に、俺の足をつかんでいた鬼の右手も吹き飛ばされたらしい。


 俺は転がっていた鬼の右手を【おにごろし】でくししにし、地面に貼り付けた。


 これで、奇襲は仕掛けられないハズだ。


「……そんなことをしても無意味だぞ?」


 鬼の言いたいことは分かる。


【鬼殺し】を地面に突き刺せば、鬼と戦うすべがなくなると、鬼は言いたいのだろう。


 まるでお門違かどちがいな言葉に、俺は笑った。


「【鬼殺し】は、もう必要ない」


 鬼が俺を見て眉を寄せる。


「俺はずっと、嘘をついてた」


「なんだと……?」


「俺は教室で黒猫をでる姿を見た時から、ずっと東雲しののめを目で追ってた。そりゃ、最初は純粋に東雲の事が美人だと思ってたからだし、ゴマちゃんと遊んでくれてることが気になったからでもある。でも、その本心を、俺は自分に対しても誤魔化ごまかして、だましてたんだ」


「……何の話だ?」


 鬼が苛立いらだち混じりに言うけれど、


「人の話は最後まで聞かなきゃ失礼だって、教わらなかったか?」


 俺の言葉に鬼が口を閉じてにらんでくる。


 ありがとよ。


 そのままだまって、とりあえず、俺の話を聞いてくれ。


「俺は東雲を助けるために死のうと思った。俺が死ねば、その精神的なショックで東雲が目覚めて、ハッピーエンドになるって思ってたし、それで俺は満足だった。でも、それじゃ駄目だめなんだって千さんに教えられた。まったく、遅すぎるよな。俺がどうして、東雲のためなら死んでも良いと思ったか、俺はやっと気づいたんだ」


「……だから、何が言いてぇんだ?」


「東雲は、自分が死んでも悲しんでくれる人なんていないって言ってたけれど――俺がその人になるのじゃ駄目かな?」


 きばをむく鬼を見て確信する。


 鬼は俺の言葉にあせっていた。


 それはつまり、俺の言葉が、東雲に届いているからだ。


「テメェはもう、死んどけ」

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