第100話 鬼を殺せる刀5


 愉快ゆかいで笑えてきやがる。


 この作戦なら、どちらにしろ、俺の勝ち。


 東雲しののめの存在は、俺の中で、死んでもいいとすら思えるほどに大きくなってやがった。


 心残りなのは、母さんや瑠衣るいせんさんにまくらさん。


 そして、東雲しののめに〝俺は死なない〟と嘘をついたことだ。


「悪いな」


懺悔ざんげには遅すぎるだろうがっ!」


 鬼が、俺に向かって飛び掛かってきた。


 長い腕を生かして槍の様に先制攻撃をしかけてくるが、俺は身をひるがえして避ける。これは東雲の動きを、そのまま丸パクりした動き。俺はそのまま【鬼殺おにごろし】で鬼の首を狙うが――その刀身は、鬼のきばによってはじかれた。


 体勢たいせいを立て直そうとした時、俺の足を、誰かがつかんだ。


 思考速度を馬鹿みたいに早くした脳と目が、自分の足元を確認し、答えを導き出す。俺の足を掴んでいるのは――先ほど切り落とした鬼の右手首だった。


 手首だけになっても動かせるなんて、反則だろ?


 思わずよろけた俺の前で、鬼は、口が裂けるほどの満面の笑みを浮かべていた。


 鬼が高速で首を振る。


 長く鋭いつのが――俺の胸へとせまる。


 重心を失った俺にできることなど、何も残っていなかった。




 ――死んだと、思った。




 それなのに、


「たわけがっ!」


 俺の真横に、もう一人の、鬼がいた。


 俺はその鬼に突き飛ばされる。


「……せっかく探し出したというのに、貴様らは何をしておるのじゃ? 小僧は〝死なない〟と言った約束を破っておるし、小娘にも〝獅子堂ししどうわす形見がたみを殺すな〟と言ったハズじゃぞ?」


「せ、せんさん!」


 地面に転がっていた俺が顔を上げると、すでに事は終わってしまっていた。


 千さんは俺の身代わりになって――その胸を、つのつらぬかれていた。


「妾を失望させるな! 一流の主人公は、無理でもなんでも押し通して、どんな理不尽な状況でも完全勝利して、最後にハッピーエンドを掴む奴のことじゃろうがっ!!」

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