第26話 彼女が正しいわ2


 唐突とうとつに割り込んだ声に視線をやると、誰もいなかったはずのリビングに、人影があった。


 いつからいたのだろう?


 その人物は、見慣れた制服姿で、腰まで届く長い黒髪を持っていた。


 切れ長の目は意志の強さを感じさせ、その立ち居振る舞いは自信に満ちている。顔面偏差値はクラスで一、二を争うほどに高く、それに負けず劣らず成績も上位の優等生。


 彼女の登場に、脳みそが追い付かない。


東雲しののめが、なんでここに?」


 そこにいたのは、校舎裏で別れたクラスメイト、東雲しののめ乃々華ののかだった。


 こちらに一歩踏み出した東雲の手に、棒状のモノが握られていることに気づく。


 それは余りにも普通の高校生には似つかわしくない得物――さやに納められた日本刀だった。


「なんだよ、その刀は?」


 もしも本物ならば、銃刀法違反は間違いない。


「……獅子堂ししどう君は黙っていて」


 東雲の視線は俺ではなく、その背後、玄関に立っているはずきに向けられている。


「邪魔をしないでくれたら、獅子堂君のことは見逃してあげる」


 東雲はゆっくりと刀を抜いた。


 室内の蛍光灯に照らされた刃先が、白いもやのような〝何か〟に包まれているのが視えた。


「その刀で、何をする気だ?」


「邪魔をしないでって言ったの、聞こえなかった?」


「東雲はその刀で、はずきを殺す気なのか?」


 一向に場所を譲らない俺を、東雲が睨みつけてくる。


「そこをどいて」


「断る」


 俺はおぼろげな幼い頃の記憶――親父の姿を思い出していた。


 あの時に親父が使っていた刀と、東雲の手に握られた刀は似ている。


 恐らく、東雲の手にある刀は、幽霊を斬れるのだろう。


 刃先を俺に向け、東雲はため息をついた。


「彼女はもう、死んでいるのよ?」


 俺の背後で、はずきが、息を飲む気配がした。


 東雲が何者なのか気になったが、それよりも――はずきを斬られたくない気持ちが上回った。


 俺ははずきを守るように、手を広げる。


「どういうことかしら?」


 口調は穏やかだが、東雲の視線が鋭さを増した。


「……はずきには肉体が無いだけで、俺達と同じだろ?」


「いいえ、まるで違うわ」

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