第27話 彼女が正しいわ3


 東雲しののめはきっぱりと断言し、続ける。


「確かに彼女の境遇きょうぐうには同情すべき余地がある。だからこそ、私たち霊媒師れいばいしは彼女を見逃し続けていた。でも、もう時間切れよ。彼女はこのままでは地縛霊から悪霊に変わる。そして、この一帯は私の縄張り。ここで生まれた悪霊は、私が始末する決まりなのよ」


「……東雲が学校を辞めるって理由も、そこから来てるのか?」


「察しがいいわね。そこまで察しがいいなら、そこをどいて頂戴」


「はずきは、悪霊なんかじゃない」


「……」


 東雲はまっずぐに俺を見据えたままだ。


「はずきは被害者だ、悪霊なんかじゃ――」


素人しろうと獅子堂ししどう君に、悪霊の定義を教えてあげるわ」


「悪霊の定義?」


 俺は振り返り、はずきを視界に入れた。


 俺を止めるために必死だったはずきは、東雲の刀を見て胸を抱いている。


 こんなにも非力に見えるはずきが、悪霊だっていうのか?


「悪霊とは、生きている人間に危害を加える幽霊のことよ」


「はずきは何もしてないだろ? ただ、俺が代わりに――」


「それが問題なのよ」


 東雲は俺を見据えて続ける。


「現に彼女の霊は、獅子堂君をたぶらかして、生きている他の人間に危害を加えようとしているじゃない? それは立派な悪霊と見なせる行為。それを否定したいのであれば、彼女の復讐ふくしゅうを代行しようなんておろかな真似は辞めなさい」


 東雲の言葉は、納得できるだけの理由を持っていた。


 結局のところ、霊媒師とは人間だ。


 だから、人間に不都合になるようなことが正解には、ならない。


 それはある意味では合理的で、正しい判断なのだと思う。


 でも、だからって、俺はそこまで、大人になれなかった。


「悪いのは生きている人間の方で、はずきは悪くないだろ!? それなのに、それを代行することすら許されないっていうのか? そんな不条理があるかよ!? そんなことが許されるぐらいなら、俺は人間の味方なんか――」


「もう、いいよ?」


 はずきに、後ろから抱き着かれた。


 両手を俺の腰に回したせいで、床に彼女の内臓が散らばる。


 ……何をやってんだ。


 また拾うの大変だろうが。

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