第28話 彼女が正しいわ4


「……俺のせいで、はずきを悪霊になんてさせない。おはらいなんて、させない」


「だから、もういいの」


「もういいって、どういう意味だよ?」


 はずきが、俺の背中に顔をうずめた。


「その人が言っていることは正しいわ」


「……」


あきらの目的は私を成仏じょうぶつさせることだったから、私は自分の未練についてずっと考えていたの。それで、ずっと考え抜いて、分かったの」


 はずきは俺から手を放し、背後から俺の前へと出る。


「私が本当にしたかったのは復讐ふくしゅうなんかじゃなかった。明みたいな優しい人と知り合って、幸せに生きたかったんだなぁって。でも、それって、死んじゃった私には無理じゃない?」


 同意を求めるように、はずきが俺を見つめる。


「そうなると、私が綺麗に成仏することなんて、たぶん無理なのよ」


 はずきは東雲しののめの方に両手を広げた。


「だから、明を傷つけないで」


「……話が早くて助かるわ」


 東雲が刀を、上段に構えた。


「東雲さんは霊媒師れいばいしさん、なのよね? 斬られた私はどうなるの?」


「正確なところは解明されていないけれど――この刀は、魂と霊力の繋がりを断ち切ることができる。霊体と別れた魂は、性質が変化し、新たな輪廻転生りんねてんせいの旅に出ると言われているわ」


「それなら安心ね」


 東雲の淡々たんたんとした答えに、はずきは納得したらしい。


「次は、もっと上手く生きられるように頑張るね」


 はずきそは消える最後の瞬間まで、


「明に会えてよかった」


 俺のために話を続け――東雲の刀が、はずきを捉えた。


 斬られたはずきの背中が、白いもやとなって霧散むさんしていく。


 俺はそれを、ただ、見ていることしかできなかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る