第29話 馬鹿は死なぬと治らぬか1


「隣に座ってもいいかしら?」


 気が抜けて床に座っていると、東雲しののめが話しかけてきた。


 俺の返事を待たず、東雲は膝上ひざうえにかかる短いスカートを伸ばして隣に座る。


 そんな東雲を見ながら、俺は生産的なことを何も考えられないでいた。


 俺は結局、はずきに何もしてやることができなかった。今回もまた、幽霊を助けることができなかったし、人を助けるということがどれだけ難しいことなのかを思い知らされる。俺はガキの頃からずっと変わっていない。


 俺ははずきに、もっと何かをしてやれたんじゃないか?


 答えのない問いが、頭の中でぐるぐると回っていた。


「私が言うのもアレだけれど、彼女は他の霊に比べれば幸せだったと思うわ」


 東雲がひかえめに、沈黙を破って話しかけてくる。


「……本当に、そう思うか?」


「残念だけれど、この世界には救われない魂が数え切れないぐらいにいるわ。この世界は理不尽にまみれている。不運に見舞われた人や、悪意にしいたげられた人たちに救いはない」


「……」


「彼女のように、理性を失わず、悪霊になる前に話すことのできる幽霊もいるけれど、もう手遅れになってしまって話の通じない霊も少なくないわ。そんな幽霊たちを全て救うのは不可能で、根本的な未練は全て〝死んでしまった〟ということに収束する。そんなごうを背負った彼女だけれど、それに自分で気づけた彼女は――最悪ではなかったわ」


 本当に、そうだろうか?


 目を伏せる東雲は、俺のことをおもんばかってくれていた。


獅子堂ししどう君は、彼女とはどういう関係だったの?」


「俺は――ただの知り合いだよ」


「知り合い……ねぇ?」


 隣に座った東雲が、俺の顔をのぞき込んできて、俺は眉を寄せた。


 東雲の整った顔がすぐ近くにあって、少しだけあせる。


「なんだよ?」


「あなたたち、まるで恋人同士みたいだったわよ?」


 ニヤリと笑う東雲に、俺はため息をついた。


「俺ははずきの大切な人にはなれないさ。俺達が知り合ったのははずきが死んだ後だったし、俺は数時間前までははずきの名前だって知らなかったんだぞ? 俺はただ、はずきを見つけることのできる体質だっただけで、何もしてやれなかった」


「……彼女はそう想っていなかったでしょうに」


 東雲はそう言って立ち上がった。


 もう話すことは無いと、その仕草しぐさが語っていた。


「東雲は、霊媒師れいばいしなんだよな?」

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