第42話 こんな道を選ぶなんて許されない2


 俺の言葉に、まくらさんはうなずいてくれる。


「鬼は霊媒師が殺すことはできませんが、りついた人間の寿命が尽きると、その核だけを残して消滅します。その核は新たな別の人間に憑りつきますが、その憑りついた者が子供だった場合、宿主が鬼の憑依ひょういに耐えられる歳になるまで目覚めることはありません。そして、目覚める前に憑依された子供を殺すことで、鬼を目覚めさせない状態を繰り返すことができる」


「……」


瑠衣るいは、霊媒師協会によって、人工的に鬼を憑りつかせた身寄りのない子供なのです」


 それは、あまり気分の良い話ではなかった。


 生贄いけにえのようなことが――しかも、現代の日本で行われているなんて。


「瑠衣は死ぬために、今まで生きてきたってことですか?」


 それは、許されることなのだろうか。


 しかし、何も知らない部外者である俺に、それを意見する資格があるのだろうか。


「私も、それが正しいことだとは思いません。しかし、瑠衣のような子供たちのお陰で、鬼の脅威から人々が守られているというのも事実です。この十年間、私は瑠衣を助ける方法を探していたのですが、その先を東雲しののめ君にかすめ取られてしまいました」


 まくらさんにおんぶされた東雲の額には、鬼の角が生えている。


「あれは〝口移し〟という秘術です。本来は病や呪いなど、霊的エネルギーを分け与えたり奪い取ったりするための秘術ですが、東雲君はそれを応用し、瑠衣に巣食う鬼を肩代わりしてしまいました。……東雲君は【練磨れんま】が使える霊媒師であるために、鬼の覚醒かくせいを遅らせることができるでしょうが、その根本は何も解決していません」


 まくらさんはいつの間にか笑みを消し、目を伏せている。


 その顔は、とても悔しそうだった。


「私と連絡を絶ってから、東雲君はずっとそうするつもりだったのでしょうね。迂闊うかつでした。私は東雲君の覚悟を見誤っていました。それほどまでに東雲君が瑠衣に肩入れしていることに気づけなかったのです。本人の願いとはいえ、こんな道を選ぶなんて許されない」


 まくらさんはため息をつく。


「私は瑠衣の代わりに――東雲君を殺さなければならなくなりました」

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