第41話 こんな道を選ぶなんて許されない1


わらわは先に帰るぞ」


 鬼はその姿が目立つと言い、その言葉を残して姿を消した。


 そして、今、俺は瑠衣るいをおんぶし、その隣でまくらさんが東雲しののめをおんぶしている。


 意識のない女子高生をおんぶして、しかも平日の昼間に歩くというのも目立つ気がしたが、そうワガママを言っていられる状況でもない。


 俺たちは二人並んで、まくらさんと瑠衣の家を目指していた。


「まず、鬼について説明しましょう」


 まくらさんは何でもないことのように、信号待ちをしながら答える。


「鬼とは生きた人間にりつくあやかしです」


「憑りつく?」


「正確には〝支配する〟と言った方が正しいかもしれません。本来、我々霊媒師が相手をする悪霊というものは霊体であって実体を持ちません。ここ二十年ほどで画期的に進歩した現代の除霊道具と鍛錬たんれんを積んだ霊媒師がいれば、悪霊が問題になることは少なくなりました。そのお陰でオカルト番組が減ってしまったのは悲しいですけどね」


 まくらさんは冗談交じりに続ける。


「鬼とは、そんな現代でも猛威もういを振るっている霊障のひとつで――あ。青になりましたよ」


 視線を向けると、確かに歩行者用の信号が青になっていた。


 俺たちは横断歩道をゆっくりと歩き始める。


「鬼とは、生きた人間に憑りつく妖で、その鬼が目覚めた場合、鬼は霊力を集めるために人間を襲い、人間の魂を喰らいます。鬼は憑りついた人間という実体を持つために強力な妖で、霊媒師といえども一筋縄ひとすじなわどころか、身をていしても勝てない存在であるとされています」


 不意に、せんと呼ばれている鬼が、俺の親父を殺したと言っていたことを思い出した。


 親父は、あの鬼に本当に殺されたんだろうか?


「しかし、鬼による被害は現在では可能な限り減りました。過去の霊媒師たちは直接的には鬼に勝てませんでしたが、鬼の弱点に気づき、それを応用したのです」


「……その方法に、瑠衣や東雲が関係しているんですか?」

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