第43話 明君、お茶をっ!!1


 まくらさんの家は絵にかいたような日本家屋で、へいに囲まれた広い敷地には母屋おもやはなれが建てられ、他にも庭園や道場のような建屋、さらにまくらさんの職場である工房こうぼうもある。


 母屋の一室に布団をき、瑠衣るい東雲しののめを寝かせた後、俺は和室に通されて座っていた。


 ややあって現れたまくらさんの手にはお盆があり、おかきや煎餅せんべいなどが盛り合わせになっている皿とお茶が乗せられていた。


「お待たせしました」


 まくらさんはそれらを机に並べ、俺の真向かいに腰かける。


「ここ数日間、あきら君にはご迷惑をおかけしましたが、瑠衣と東雲君を確保したことで、とりあえず事件は解決です。あとは私や霊媒師協会で処理いたしますので、明君がこの件について思い悩む必要はありませんからね」


 まくらさんはそう言って、煎餅をばりばりと食べ始めた。


 それを見て、俺もおかきに手を伸ばす。


 悠長に構えている場合でもないが、考えをまとめる時間が欲しかったのかもしれない。


「……ばりばり。……ごくり。……ばりばり」


「……ばりばり。……ごくり。ばりばり」


 慣れない二人きりの空間に、少し緊張していた。


「……これ、美味しいですね?」


 俺が聞くと、まくらさんは助かったとばかりに笑った。


「もらい物なんですが、けっこう高いモノのようです。正直にいうと、私はお返しに気を使うために嬉しくなかったりするんですけどね。……ここにあっても余らせてしまうので、好きなだけ食べて行ってください」


「では遠慮なく頂きますね。ばりば――っ!? げほっがはっ!?」


「あ、明くん!? だ、大丈夫ですか!?」


 おかきが、気管に入った。


「すみませっごほっ、げほっ!?」


 空気が読めてなさすぎて悲しくなる。


「か、考え事をしていて気管に、その――げほっ!?」


「明君、お茶をっ!!」

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