第36話 ひと揉みの価値2


「なんであの鬼は東雲しののめを狙ってたんだ? それに」


 俺はベッドに寝たまま吐息を立てる瑠衣るいに視線を向けた。


 瑠衣は俺たちが叫んだ後も、こうして寝たままだ。


 ひたいから生えている黒い角も考えると、ただ眠っているだけには思えない。


 その角は、あの鬼のモノとよく似ていて、


「瑠衣も関係してるのか?」


 幼馴染である瑠衣の家庭が複雑なことを、俺は知っている。


 瑠衣の父は刀匠をしている人で、瑠衣と実の血のつながりは無いらしい。


 俺の親父と瑠衣の父は仲が良かった。


 親の繋がりで瑠衣と友達になった俺は、小さい頃に何度も遊びに行ったことがあるから瑠衣の父とは面識があるが、瑠衣の家庭についての実情を、俺は何も知らないでいた。


「霊媒師協会はルイルイを殺そうとしている。だから、私はルイルイを助けるために――」


 その時、間延まのびしたチャイムの音に、東雲の言葉はさえぎられた。


 東雲の視線の鋭さから、それが好ましい来客ではないことを知る。


獅子堂ししどう君が目覚めるまで待ってくれていただけで、ここにいるのはバレてたみたいね」


 目を伏せる東雲がため息交じりに笑う。


 そんな東雲を見て、俺は口を開く。


「詳しいことはわかんねぇけどよ? ……東雲は、瑠衣を助けたいんだよな?」


 躊躇ちゅうちょしながらうなずく東雲を見て、俺は決めた。


「何か、役に立てることはないか?」


 俺の言葉に、東雲の瞳が揺れる。


「素人の獅子堂君にできることは何もない――と言いたいところだけれど、すでに命を助けてもらっておいて、こんなことを口にする権利は私にはないんだと思うけれど」


 東雲は俺をまっすぐに見つめた。


「胸のひと揉みの貸しだけ、返してもらえる?」


「任せろ」


 出来るだけ、役に立ってやる。


 なぜなら、女子高生の胸のひと揉みの価値は、計り知れないからだ。

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