第37話 キャラ付けが濃すぎる1


あきら君、久しぶりですね? また背が伸びましたか?」


 俺が玄関の扉を開けると、なんと、そこにいたのは俺の知っている人物だった。


 羽織はおり袴姿はかますがたで、女のように華奢きゃしゃな身体つきで、背丈だけで言えば俺と同じぐらい。腰まで届く黒い長髪が印象的で、俺の親父の友人で、繊月せんげつ瑠衣るいと二人暮らしの父であり、刀匠をしていて、いつも笑顔を張り付けている余裕を持った大人。ちなみにその右目には眼帯が付けてあって、さすがにここまで印象的だと、キャラ付けが濃すぎるぐらいだと思う。


 彼の名前は、繊月せんげつまくらさん。


 まくらさんは、俺が東雲しののめの家にいることに驚いていなかった。


 つまり、まくらさんは霊媒師協会って奴の刺客しきゃくなのだろうか?


「三年ぶりぐらいですね」


 親父が亡くなるまでは瑠衣の家へ遊びに行っていたから、しょっちゅう会っていたが、中学生に上がる頃にはその頻度も落ちて、高校生になってからは初めての再会だった。


 まくらさんは、三年前に会った時と変わらず、人のよさそうな笑顔で俺を見つめている。


「もう傷は大丈夫ですか?」


「お陰様かげさま全快ぜんかいです」


「それは良かった。まったく、私の周りは勝手な人たちばかりで困ります。東雲君は規定違反を繰り返していますし、せんさんは単独行動の果てに明君に手を出しますし。……でも、ここからは私が動くから安心してください。本当に迷惑をかけましたね」


 俺が重傷を負って眠っていたことや、東雲のことをまくらさんは知っている。そして〝千〟というのは、話の流れから考えるなら、あの鬼の名前だろうか?


「あの、聞きたいことがあるんですけど?」


 俺の問いに、まくらさんはかぶりをふった。


「私は明君の知りたいことを全て知っているでしょう。しかし、説明はできません」


「……瑠衣の命がかかっていても、ですか?」


 その言葉に、まくらさんは目を細めた。


「明君がどこまで知っているのかは分かりませんが、これは霊媒師の矜持きんじに関わる話で、私はそれを明君に話すわけにはいきません。それに――これは、そういう約束なんです」


「……誰との約束ですか?」


咲夜さくやさんですよ」


 咲夜とは、俺の母さんの名前だった。


「私は咲夜さんと同じで、明君を霊媒師の道に進ませる気はありません。だから、予定外とはいえ明君を巻き込み傷つけてしまったことは私の落ち度で、本当に反省しています。しかし、だからこそ、後の事は全て私に任せてほしいのです」


 まくらさんは笑顔で俺を見つめた。


「だから、道を開けください」


「嫌です」

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