第38話 キャラ付けが濃すぎる2


 断る俺に、まくらさんは眉を寄せた。


あきら君は知らないと思いますが、私は霊媒師協会に顔が立ちます。悪い様にはしませんし、最善は尽くすとも約束しましょう。だから――」


 まくらさんの言葉を咀嚼そしゃくしながら、俺は考え続ける。


 俺の役目は、まくらさんをここで足止めすることだ。


 俺がまくらさんとの話し合いを少しでも長引かせ、その間に東雲しののめ瑠衣るいがベランダ側から逃げ出す手はずになっている。


 だから、俺はまくらさんの気をくような会話を続けなければならない。


「それで、瑠衣は助かるんですか?」


「……はい」


 まくらさんの答えが遅れた。


「嘘、ですよね?」


 いつも笑顔で余裕をもっている様に見えていたまくらさんが、真剣な表情をしている。


 それが答えだと、俺は気づいていた。


 東雲の言葉は、やはり本当、らしい。


「まくらさんは、瑠衣が死んでもいいっていうんですか?」


「瑠衣が生き続けることが正しいとは限りません」


「……どういう意味ですか?」


「これは最初から決まっていたことなんです。そもそも、私が瑠衣を預かることになった経緯もそうですし、瑠衣の監視役として東雲君を同じ高校へ通わせたのも私の――」


 


 その時、耳をつんざく衝突音しょうとつおんが響いた。




 まるでトラックが事故にでも遭ったような凄まじいその音は、ベランダの先から聞こえた。


 思わず振り返る俺の横をすり抜け、まくらさんが部屋を駆け抜けていく。


「くそ!」


 俺も走り出すが、まくらさんは人間離れした速度だった。


 追いつくどころか、ぐんぐんと距離が離れて行ってしまう。


 俺がベランダに出た頃には、すでにまくらさんの姿はなく、そこから飛び降りていた。


 東雲の部屋は4階で――普通の人間が飛び降りたら、自殺行為もいいところだってのに。


 俺の視界の先、すぐ下の道路に、制服を着た瑠衣を抱きかかえる東雲の姿がある。


 そして、その前に、昨日の鬼がいた。


 鬼が殴ったのだろう隣の家の塀が崩れていて、鬼が東雲に迫っている。


 あの鬼とまくらさんは、仲間なのだろうか? 


 とりあえず、この状況が東雲にとって良い訳がないのは確かだ。


 俺は居ても立っても居られず、玄関へと戻り、そのまま飛び出していく。


 素人しろうとの俺には、また、何もできないかも知れない。


 誰も助けられないかも知れない。


 でも、このままではいられなかった。

 

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