第12話 毒キノコ的な距離の置き方3


「……おい待て。ちょっと聞いてもいいか?」


「三つまでならなんでも聞きましょう」


「いやいや、お前は魔法のランプに封印された魔法の精なのか? なんでも願い事を叶えてくれたりするのか? っていうか東雲しののめってこういう奴だったのか!?」


「私は精霊のように美しいけれど人間よ。あと、願いは叶えず聞くだけ。そして、これが私の真の姿よ。私と会話した女子たちはなぜか私から距離を置いてしまうの。恐らく私の美貌びぼうに恐れをなしてしまうのでしょうね。力の差がありすぎるのもつまらないモノだわ」


「実力差がありすぎる無双系の主人公みたいなこと言ってるけど、そうじゃないからな? それはただ単に避けられてるだけで、単にぼっちなだけだからな!?」


 俺は東雲を孤高の花だと思っていたが、本当は毒キノコ的な距離の置き方だったらしい。


 俺の言葉に傷ついたのか、東雲は視線をらして口を開く。


獅子堂ししどう君ったら酷いわ。それが事実だったとしても、花も恥じらう女子高生にぼっちなんて言わないで頂戴。そもそも、私にはルイルイがいるからぼっちじゃないし、獅子堂君にそれを言う権利があるのかしら?」


「……なんだと?」


「獅子堂君だって、ぼっちじゃない」


 次に崩れ落ちたのは、俺の方だった。


「いつもお昼だって一人で食べているし、授業で班分けになったら……その、獅子堂君がそわそわしているのを私は知っているのよ?」


 ――やられた。


 学年屈指の秀才であり美人である東雲が目立つのはまだしも、俺がクラスから浮いていることを東雲は見抜いていたというのか?


「東雲、少しだけ弁明させてくれ」


「何かしら?」


「俺はぼっちじゃないんだ」


「どういう意味よ?」


 不満げな表情の東雲を手で制し、俺は口を開く。


「いいか? 俺は他人となれ合うのが嫌いだから関わっていないだけだ。つまり、俺は自ら一人でいることを選んでいる。どうだ? 傍から見たらぼっちに見えるかもしれないが、それは大きな誤解なんだ。そう、俺の場合は、いわば戦略的ぼっち!」


「せ、戦略的ぼっち!?」


 納得してくれたのだろうか?


 俺が様子をうかがうと、そこにはあわれみを帯びた東雲の顔があった。


「あえてね、そう……そうよね、わかるわよ獅子堂君。あなたが言うんだから間違いないわ。私はもうこれ以上そこには踏み込まないから自由にして頂戴」


「いや、待て。東雲、俺は本当に――」


「獅子堂君、この話はもう辞めましょう。なんなら私の負けでいいわ。誰にだって聞かれたら辛いことの一つや二つはあるもの。私はそこまで無慈悲な女じゃないのよ」


「ち、違うんだ! 俺はそんな――あ、あわれみの目で俺を見ないでくれ……っ!」


 懇願こんがんする俺を見て、東雲は勝ち誇るように笑った。


 美人の笑顔って、それだけで色々と許せてしまう気になるから卑怯だと思う。

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