第47話 俺は無力だった


 まくらさんの家を出ると、すでに空は夕焼けに変わっていた。


 見慣れた住宅街を横目に自転車をこぎ、自宅へと帰る。


 詳しいことは、正直に言って分からない。


 しかし、俺の親父おやじは、あの鬼――せんさんを助けるために死んだらしい。


 そして、それが正しいことなのか、俺には分からなかった。


 親父のことは尊敬していたけれど、母さんを泣かせて先にったことに関して言えば、俺は親父をうらんでいる。それに、親父の死はまくらさんや千さんも縛っているじゃないか。


 二人は自分が俺の親父を殺したと言い張っていたが、実のところ、あの親父が馬鹿をやって勝手に死んだんだろうと思った。親父は思い切りのよいところがあって、それは長所でもあり、短所でもあったんだと思う。


 不意に、思う。


 もしかして、俺が親父の様に死ねば――東雲しののめを助けることが、できるのかも知れない。


 しかし、俺には命をかけることなんて、できるだろうか?


 もちろん東雲が死ぬのは嫌だ。


 それは避けたい未来に決まっていたけれど、そのために俺が死ぬとしたら。


 ――母さんが悲しむだろうな。


 俺まで先に逝くなんてつらさを、母さんに感じてほしくなかった。


 それが、親父に先立たれた俺の、素直な気持ちだ。


 ……まくらさんは、身寄りがいない子供に鬼を憑りつかせたと言っていた。


 もしかして、東雲には死ぬことを悲しんでくれる家族がいないのだろうか?


「それって」


 それ自体が悲しい気がする。


 しかし、俺は普通の高校生で、恐らくまくらさんや東雲の役に立つことはできないだろう。


 むしろ、足を引っ張る可能性の方が高いとすら思う。


 どう考えても、まくらさんの言葉は正しくて、それを否定する言葉が見つからない。


 俺は無力だった。


 俺が誰かを助けるなんてことは、やはり、無理なことなのかも知れない。

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