第46話 嘘は駄目じゃろ?2


 鬼はまくらさんの言葉に立ち上がる。


 座ったままのまくらさんに近づくと、その胸ぐらを掴んで引っ張り上げた。


獅子堂ししどうを殺したのはわらわじゃ! 霊媒師協会の連中だって全員がそう思っておるし、それが真実じゃろうが! 今更ふざけたことを抜かすなら、まくらだろうが噛み殺すぞっ!?」


 牙を立てる鬼を、まくらさんはにらんだままだ。


 華奢きゃしゃなまくらさんと鬼の背丈は二倍ほども違うのに、胸ぐらを掴まれて宙に浮いているにも関わらず、まくらさんはおくすることはなかった。


せんさんがどう思おうとも、あれは私の失策です。千さんはただ、依代よりしろに選ばれただけではありませんか? そんな千さんに責任があるとは私は思いません。この際ですからはっきりと伝えますが、獅子堂さんの死は私の責任です。正確さにかける伝承を信じ、獅子堂さんの腕を信じ、己の刀匠としての腕を信じた私のおろかさが――いいですか?」


 鬼に負けず劣らず、まくらさんは怒りをあらわにする。




「私の鍛えた未熟な刀こそが、獅子堂さんを殺したんです」


 


 にらむまくらさんの顔から、鬼が視線を外した。


「ふ、ふざけるなっ!!」


 鬼はまくらさんを地面に叩きつけて手を放し、怒りの表情のまま俺を見る。


「妾が獅子堂を殺した張本人ちょうほんにんじゃ! 覚えておけ!」


 鬼はそれを捨て台詞に縁側えんがわへと飛び移り、庭から外へと出て行ってしまった。


 唖然あぜんとする俺の前で、まくらさんは頭をかいて上半身だけ起き上がる。


「……大の大人が、見苦しいところを見せてしまいましたね」


 にこりと笑うまくらさんを見て思う。


 まくらさんは、俺の事を、子供の様にしか見てくれていない。


「制服の替えは隣の部屋に用意しておきました。その血まみれの制服は私が処分いたしますので、着替えて帰ってくださいね。あと、あのビルに残してあったあきら君の自転車と鞄もウチの駐車場に移動してあります。他にも伝えるとすれば、千さんが壊してしまったマンションの内装や、先ほどの家のへいの修繕費も霊媒師協会が負担しますので、お気になさらないで下さい」


「……あの、まくらさん?」


「これ以上、明君にできることは何もありません」


 俺の言いたいことは、その一言で全て潰された。


「あとは私達に、任せてください」

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