第45話 嘘は駄目じゃろ?1


東雲しののめを助ける方法は、本当にないんですか?」


「ありません」


 俺の問いに、まくらさんは即答する。


 口にしてしまえば、それはたったの一言で足りてしまう現実だった。


 まくらさんは俺から視線を外さず、まっすぐに見て続ける。


「もしも、東雲君を殺さなかった場合、鬼が目覚めることになります。そうなれば我々に鬼を止めるすべはなく、東雲君を殺めるよりも大量の被害者が生まれるでしょう。つまり、残された解決策はひとつだけです。東雲君をあやめ、新たな依代よりしろに鬼を埋め込むこと。私は霊媒師協会の規定にのっとり、儀式を執り行うだけです」


 重い沈黙が、客間を包んでいた。


 そんな中で、縁側えんがわに腰かけていた鬼が、不意にこちらに振り向く。


「子供が相手だからと言って、嘘は駄目じゃろ?」


「嘘?」


 思わずこぼれた俺の言葉と共に、まくらさんは鬼をにらんだ。


せんさんの方こそ嘘はいけません。私たちも好き好んで子供を依代よりしろに仕立てているわけではないことぐらい承知の上でしょう? 私や獅子堂ししどうさんが、この件にどれだけ懸命けんめいに取り組み、その結果、獅子堂さんは――」


「そんなの関係ないじゃろうが」


 鬼はまくらさんの言葉を切り捨て、ニヤリと笑う。


わらわのことを助けるために、貴様らは馬鹿みたいに戦ってくれたじゃろ? 助けてもろうた妾と、あの小娘の何が違う? 妾を助けたように、あの小娘を助ける方法が無いわけではなかろう。ならば、まくらの言葉に真実はないのじゃ」


「……百歩譲って、私の言葉は嘘かもしれません」


 静かに睨み合う二人は、譲る気が一切なかった。


「しかし、それは万が一の可能性に過ぎず、代償だいしょうも大きすぎる。私は、あの時のあやまちを繰り返すわけには行きません。千さんならば、知っているでしょう? 千さんは、千さんが獅子堂さんを殺したと勘違いしているのかも知れませんが、それは違います」


「……なんじゃと?」

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