第68話 俺達の朝ごはん4


 まくらさんの言葉に異をとなえたのはせんさんだ。


「なんでわらわ獅子堂ししどうわすれ形見がたみの世話など焼かんといかんのじゃ? こんなド素人しろうとに付き合うほど妾は暇ではないぞ」


「……理由は二つあります」


 まくらさんが千さんに口を開き、指を一本立てて見せる。


「まず一つめの理由は、千さんが一般人であるあきら君に手を出したことを知っているのが、私と東雲しののめ君だけということです」


「それがどうしたと言うのじゃ?」


 ピンときていない千さんがふんぞり返っているが、まくらさんは笑ったままだ。


脅迫きょうはくになるため明言は避けたいのですが、千さんが霊媒師協会のタブーを犯したことに間違いはありません。私は本来、これを霊媒師協会に報告する義務があります。そうなれば千さんの評価が落ちることは避けられませんし、手当どころか今期のボーナスも確実に――」


「そ、それ以上は口にするな!」


 千さんは頭をかき、観念かんねんして口を開く。


「妾が協力する理由は分かった。じゃから、二つめの理由とやらを聞かせろ」


 まくらさんは千さんにうなずき、指をもう一本立てた。


「二つめの理由は、千さんが人格こそ人間でありながらも、その身体が鬼そのものであるということです。私は獅子堂さんの敗北の理由の一つを、鬼との戦闘経験が無かったことだと考えております」


 まくらさんが俺を見据え、改めて口を開く。


「そもそも現代の霊媒師の中には、鬼を倒せる者などいません。獅子堂さんクラスの霊媒師ですら、鬼の前には傷をつけるのが精いっぱいでしたし、正直に言って、私は明君が、獅子堂さんよりも鬼と渡り合えるとは思っておりません」


 まくらさんの言葉は、納得に足るものだった。


 素人の俺がこのまま戦っても、鬼に勝てる可能性は無いに等しい。


「しかし、ここには協力的な鬼である千さんがいらっしゃいます」


「なるほどのぅ」


 千さんも、俺を見つめた。


「これは、あの時よりもかなり都合の良い状況です。これでも万が一の可能性であるのは変わりませんが、東雲君の儀式を行うまでの間に――明君には、千さんに打ち勝ってもらいたいと考えています。もしも、明君が千さんを斬ることができれば、東雲君の儀式に明君を同席させると約束しましょう」

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