第95話 そっくり2


「すでに目覚めてしまった鬼には儀式も行えません。このままでは一般人にも犠牲者が出てしまう可能性が大きいですね」


 まくらさんは冷静に言うが、状況はかなり悪そうだ。


 例え鬼の目覚めが不意打ちに近かったとしても、これだけの霊媒師が揃っていながら、おさえ込んでいるだけで精一杯らしい。鬼とはやはり、話にたがわない恐ろしいあやかしなのだろう。


 でも、そこまで頭で分かっていても、安堵あんどしている自分がいた。


 被害が出ているこの状況で不謹慎ふきんしんなのは分かっている。


 でも、鬼が生きているということは――まだ、東雲しののめも生きている。


「まくらさん、あとは俺に任せてください」


「駄目です。あきら君を無駄死むだじにさせるような真似はできません」


 言い切るまくらさんに、俺は隠し持っていたせんさんの右手首を見せた。


 それを見て、まくらさんの目が驚きに開かれる。


「明君が、千さんを斬ったというのですか?」


 俺はうなずき、口を開く。


瑠衣るいがご馳走ちそうを作って、俺たちの帰りを待っています」


「……どういう意味ですか?」


 真意しんいを理解できず、眉を寄せるまくらさんに俺は続ける。


「瑠衣は東雲だけじゃなくて、俺やまくらさんの帰りも待っているんです。俺はこの数日間、みんなで食べるご飯が、めちゃくちゃ楽しかった。だから、今日のご馳走もすごく楽しみで、こんなビッグイベントがあるんだったら、俺は死んでも死にきれないと思います。だから、俺は死なないし、東雲も死なせたくないんです」


 俺はまくらさんをまっすぐに見つめた。


「俺に、行かせてください」


 逡巡しゅんじゅんの後、まくらさんは笑った。


「明君のそいうところは、獅子堂ししどうさんにそっくりですね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る