第10話 毒キノコ的な距離の置き方1


まなさま〟は、大人がくぐれる立派な大きさの鳥居とりいも建てられた古めかしいやしろだ。


 社自体は鳥の巣みたいな大きさでしかないけれど、その前には十メートル四方ほどの石畳がかれていて、何も置いてない癖にだだっ広かったりする。その石畳には苔が至る所に生えていて〝学び様〟が建てられたのは満谷高校みつたにこうこうよりも遥かに前らしい。


 その古めかしさから怪しげな雰囲気がかもし出されていて、俺は実際のところ、この雰囲気こそが〝学び様〟を有名にしている要因なんじゃないかと思っている。


 俺が急いで校舎裏の〝学び様〟に行くと、境内けいだいの石畳に東雲しののめ乃々華ののかがしゃがんでいた。


「来るのが遅いと思ったら、そういうこと?」


 東雲は立ち上がり、値踏みでもするように俺を見つめた。


 東雲は腰まで届く長い黒髪を持つ女子だ。


 切れ長の目は意志の強さを感じさせ、その立ち居振る舞いは自信に満ちている。東雲が立ち上がると、そのスタイルの良さに改めて感心させられた。東雲はクラスで一、二を争うほど顔面偏差値が高く、それに負けず劣らず成績も上位。ちなみに胸もデカい。


 東雲の自信はその見た目や実力に裏付けされたモノで、東雲と対等に話す人物など、俺のクラスには瑠衣るいぐらいしかいない。どことなく高根の花って感じで、近寄りがたいんだよな。


 ……瑠衣に後押しされて来てしまったが、俺なんかと東雲が釣り合うとは思えない。


 東雲は仏頂面になり、改めて口を開く。


「ルイルイが私を騙したってことで良いのよね?」


〝ルイルイ〟とは、繊月せんげつ瑠衣るいのあだ名だ。


 つまり、俺を見た瞬間に、東雲は犯人を暴いたということである。


 そもそも瑠衣が東雲を呼び出しているんだから、それ以外に犯人がいるはずないけど。


「悪いな」


 俺の謝罪に、東雲は眉を寄せた。


「瑠衣は俺のことを想って東雲さんを呼び出してくれたんだ。……あまり瑠衣のことを悪く思わないでやってくれ」


「……」


 東雲は顎に手を当てて少し考えると、


「ルイルイから、聞いてしまったのね」


 上目遣うわめづかいで問いかけてくる。


 東雲の整った顔立ちに、不覚にも惚れてしまいそうになりながら、俺はうなずく。


「つまり、私には幽霊が視えると、獅子堂君は知ってしまったのね」


 ……はい?


「そこまで知っているなら、白状するわ」


 東雲は今、何と言った?

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