第9話 ワイバーンが現れたのである。
ワイバーン……ゲームでは幾度となく見たことあるが、やはりリアルで見るとスゴイであるな。こう、迫力があるというか――
ンなこと言っている場合じゃないであるな!彼奴め真っ直ぐこちらに向かっているである。む?こいつ、少しフラフラ飛んでいるであるが、疲労している……?
だが、だからと言ってワイバーンが脅威であることは変わりないである。ティナは先ほどまでの笑顔は消え失せ、緊張した面持ちだ。よく見るとティナの尻尾が股の間に垂れているし頭の狼耳もペタンと倒れている。これは犬が怯えている時にする行動だったはずである。いや、無理もないであるか。ティナはまだ10歳。森の魔物よりも明らかな格上なワイバーンを見て怯えない訳ないである。
仕方ないである。
「ティナ、お前は村に戻るである。」
「え?ネ、ネコは?」
「奴を食い止めるである。」
見るからに奴は弱っているが、それでも亜竜とも呼ばれる存在。一筋縄ではいかない筈である。そんな奴と闘うのに怯えているティナがいても最高の動きが出来るわけないため、足手まといになってしまう。それこそ吾輩もティナもただでは済まない可能性だってある。
「やだよ!ネコを置いて私だけ逃げるなんていやだよ!」
言うと思ったである。良い子なのはいいことであるが、今そんな優しさはいらんである。ここはガツンと言っておくべきであるな。
「いいから逃げろ!吾輩からしたら怯えているお前がいるだけで邪魔である!!吾輩の力になりたいというなら集落に戻ってギィガを呼んでくるである!」
「っ!……ごめんネコ!ごめん!!」
ティナは目に涙をため、森の中へ引き返す。
彼女の中にも色々葛藤はあったはずであるが、これはもう本当に申し訳ないとしか言えないである。こりゃ生きて帰らなきゃいけないであるな。
っておい待てワイバーン、貴様何吾輩を無視してティナを追いかけようとしている
「"グラビティ"」
もちろん練習の時、ティナに向けたものとは違い、全力で発動したグラビティは空飛ぶワイバーンを強力な重力で地面にたたき落とした。ふん、いい気味であるぞ。
グラビティを発動し続けてもいいであるが、それだけだとこいつを倒すまでは至らないだろう。
仕方なく解除すると重力におされ、平伏していたワイバーンはゆっくりと起き上がり吾輩を睨み大きく吠えた。
フン、ようやく吾輩を認識したであるか。
異世界初の戦闘……それがワイバーンてどういうことであるか。普通スライムとかゴブリンが定石ではないか?弱っているとはいえコイツ始めて戦う相手ではないのは間違いないであるな。
しかしまぁ、ティナにこいつは吾輩は食い止めると言ってしまったが……まぁ別に倒さないとは言っていないである。
見合う吾輩とワイバーン。先に動いたのは奴だ。
一口で吾輩を喰らおうと口を広げ、襲い掛かって来た。
迫力はある。だがまぁ――
「つまらん、それだけであるか。"フロート"」
吾輩は浮上し、奴の喰らいつきを難なく回避する。単純に遅い。遅すぎるである。
だからこそ、こうも簡単に跳ぶだけで避けることが出来たである。
んでもって吾輩の肉の代わりと言っちゃあなんだが食らうである。
"猫パンチ"
躊躇なく繰り出した猫パンチはワイバーンの頭部をグラビティの時以上に地面に強く打ち込まれた。というか減り込んでいるであるな。
だがそれも束の間、奴は勢いよく頭を振り上げ再び噛みついてくる。
流石に竜だけあってタフであるな。
ひとまずフロートでもう一度浮いて回避しようとしたが奴は翼を大きく動かしフロートの上昇速度より速く飛んできた。
吾輩とワイバーンの目が合う。その瞬間、ワイバーンの目が語ったような気がした。
――とった!!――と
いやいや、何を言っているであるか。
「とったのは吾輩であるぞ。」
奴の口が届く寸前に吾輩は奴の鼻っ柱に二股の尻尾を叩きつけた。
猫パンチとまではいかなくても吾輩の尻尾の力は奴には十分だったようで再び地に着き低く唸り声を上げて悶絶する。
吾輩、これを好機と見た。
落下しながら吾輩は、体の中の魔力を込める――感覚はよく分からないのでとりあえず力を、奴を打ち倒さんと意志を籠めて――奴の首目掛け唱えた。
「"ウィンドカッター"!!」
声とともに現れた魔法陣。そこから現れたのは一陣の風刃……が、ちいさっ!
うそん、最初撃ったウィンドカッターよりも小さいであるぞ!?弾かれそうであるな……
と思っていたが、ウィンドカッターのもたらした結果は吾輩の予想を大きく上回ることとなった。
頼りないと思っていた小さな風の刃が、ワイバーンの首をあたかもバナナを斬るかのようにスムーズに斬りおとした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます