第49話 吾輩は漆黒魔猫である!

『進化に合わせ、スキル・魔法が強化・追加されました』


 漆黒魔猫……?それが吾輩の新しい種族名だというのであるか?漆って漢字がただついただけなのであるが……

 ふむ。尻尾の毛色を見るに確かに吾輩の黒色にさらに深みが増したような気がしないでもない。

 おや?尻尾……吾輩の尻尾、攻撃したときは気づかなんだが、2本から3本になっているであるな。それ以外は自分で見た限りじゃ分からんであるな。


「ネ、ネコ?終わったのか?うっわ……グロイな。」


 頭の潰れたオークジェネラルを回収していると、後ろで伸びていたリンピオが話しかけてきた。

 まぁグロイのは否定しないである。頭がつぶれて脳味噌の様なものがだらだらと流れているのであるからな。ただこいつはBランクであるからな、売ったら相当な額になりそうなので吾輩ワクワクである。

 おっとそうだ。


「おいリンピオ。少ししゃがむである。」

「ん?お、おう。」


 吾輩の頼み通りとはいえ、高ランクの3体と対峙したのだ。リンピオは当たり前にボロボロで死んでないのが奇跡ともいえるである。

 そんな無茶な頼みをしたのだ。吾輩の力をもって治療せねばなるまいよ。

 もちろんしゃがんだだけで吾輩の前脚に触れるのはちょっと面倒であろうからテレビで見たカンガルーを参考に3本の尻尾を軸に体を持ち上げる。

 そして前脚を差し出し――


「触れ。」

「へ?」

「吾輩の肉球を触れ。」

「何で?」

「いいから。」


 あえて回復できることは告げずに肉球を触ることを命じ、命じられたリンピオは恐る恐るも吾輩の前脚の肉球に手を伸ばしまずはぷにっと一揉み。


「おおふ……」

『対象、認識しました。これより、癒しの肉球による治療を開始します』


 おうおう、だらしない顔で気の抜けた吐息を漏らしおって。自分ではわからないが、それほどまでに吾輩の肉球は良いもののようであるな。

 そこからはリンピオは我を忘れ、狂ったように吾輩の肉球を触る触る。ぷにぷにぷにぷにぷに……


『各部の損傷を治療が完了しました。』


 よし、治療は完了したようであるな。コーリィの時よりの速く治療できたことから癒しの肉球も性能が上がったようであるな。

 肉球を触らせながらの治療はリンピオが初めてなのであるが……


「おい、リンピオ。治療終わったであるぞ。」

ぷにぷにぷにぷに……

「おい、リンピオ?治療終了したであるから。ほら、もう触る必要ないから。」

ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……

「うっぜぇ!」

「あだぁっ!!」


 我慢の限界であるから1本の尻尾で奴の頭を軽く引っ叩く。吾輩だって痛くはないもののずっと返事も返さず触られて不快であるからなぁ!

 叩くのもやむなしという事である。


「あ、あれネコ?俺は一体……」

「治療は終わったである。」

「え、治療?あっ、本当だ!いつの間に!」


 今更自分の体を見渡して治療が完了したことに驚くリンピオ。本当に吾輩の肉球以外見ていなかったのであるか。

 癒しの肉球……意外なところでデメリットが見つかったであるな。


「よし、じゃあ吾輩たちもアステルニに戻るとする……あれっ?」

「ネコ?」


 地に降りた瞬間、吾輩の身体から力が一気に抜け、地に伏してしまった。

 あれっ、むっ!ぬおおっ!……駄目だ。どう頑張っても体が言う事を聞かずぴくぴくと動くだけであるな。


「ネコ?どうしたんだ?」

「すまん、力が入らぬである。悪いが吾輩を運んでくれまいか?重くは無い筈であるから。あぁ、それとオークソルジャーのところにもな。回収したいから。」

「おう!任せとけ!」


 リンピオは吾輩を軽々と抱え上げ、指示通りにオークソルジャーの元に連れて行ってくれ、回収を手伝ってくれた。

 しかし、どうして吾輩の身体がいきなり動かなく――ハッ!まさかこれって進化途中に動いたからであるか!?

 アナウンスは想定外の事態、不具合が起こるかもしれないと言っていたから恐らくこれがそうであろうな……まぁあの時は動くしかなかったからしょうがないである。


 回収も終えたことだしようやくこれで……え?

 この吾輩の耳に届く音は……嘘であろう?今吾輩動けないのであるぞ?


「リンピオ!急いでアステルニに向かうである!」

「な、どうした!?」

「近づいてくるのである!何かが!」


 吾輩の剣幕にリンピオも察してくれたようで吾輩を抱えたまま全力でアステルニの方角へ向け、走り出す。

 それでも吾輩の耳からその音は離れるどころか、どんどんと大きくなっていく。この音はズシンズシンと何かが歩く――いや、走る音!ジェネラルのそれよりも大きな足音が吾輩の耳元まで届いている!


 足音だけではなく、木が軋み倒れる音まで聞こえる。というかこの足音、相当なデカさを持った魔物であるか!?

 リンピオに頼み、肩に担いでもらうことで吾輩は背後確認をするが、見えた。それは森から出ていない筈なのに……豚顔が見えた。

 嘘であろう?デカくない?でっかいのがでっかい足音響かせて地面揺らして吾輩たち目掛け走ってきているではないか!


 ジェネラル達はズンズン歩いてきたであるが、この巨オーク、木々をなぎ倒してまで吾輩たちを追っているのであるか!しかも一歩一歩が大きいから速い!

 

「ネコ!何だこの音は!何が来ている!」

「でっかいオークである!そこら辺の木よりもでかい!」

「はぁ!?何じゃそりゃ!ンなもん俺が勝てるわけねぇ!」

「吾輩だって今動けないである!急いで走れ!」

「全速力だよ!!」


 とは言っているが、あくまで現段階での全速力であろう。そもそも疲労がたまっているのにまた走らせて申し訳ないが、止まれば確実に死ぬ。

 もしかしてと思い、癒しの肉球を発動させてみたが、効果は無し。どうやら、傷の回復は出来ても体力の回復までは出来ないようである。


 巨オークはどんどん吾輩たちとの距離を詰め、その巨大な影が吾輩たちを覆う。シャドウダイブが出来ればよかったのであるが、魔法も唱えることは出来ない……


「暗っ!ネコ!俺ヤバイ!?今ヤバイ!?」

「滅茶苦茶ヤバイである!」


 アカン、奴は目の先鼻の先!リンピオはもはや変な息をしている!吾輩も未だ動けず!

 奴がその丸太の如き腕を吾輩たちに振り下ろし、もう駄目かと思ったその瞬間――


「剣を持った冒険者1人と見たことも無い黒色の魔物を確認。Bランク相当、ジャイアントオークに襲われている模様。至急救援します。」

「んぁ!?」


 へっ!?女の声?状況に反し、とても落ち着いた声にリンピオの足が止まる。

 声が聞こえた方向……真横には1人の金髪の女がいた。しかもただの女ではなく……奴の頭には付いていたのだ。


 吾輩のもの同じ……言ってしまえば猫耳と呼ばれるそれが奴の金色の髪の中からピョコっと生えているではないか。

 そしてその女は迫りくる巨オークの腕に向かって対抗するかのようにか細い腕を突き出し呟いた。


「"掌破"」

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