第48話 進化してる場合である!?
進化……聞き間違いでなければアナウンスはそう言ったであるな。
待って、理解が追いつかないである。ここはひとまず考えて――って今はそんな悠長に腰を落ち着けている暇はないである!ええい、進化するかどうかだと?してやろうではないか!
『承認を確認。進化を実行――』
ドクン、と吾輩の心臓が大きく高鳴ったである。
熱い、熱いである。体が燃えるように熱い。が、不思議と辛くはない。寧ろ心地よい。
何となく分かる。これが進化しているという事であるか。光に包まれて気が付いたら……というわけでは無く、進化をしているということが実感できている。
しかしである。吾輩は今進化途中とは言え、待っているわけにはいかぬ。現にリンピオはとうとう支援魔法の効果が切れたようでオークソルジャーに押し切られていた。これは急がねば。
『警告。進化途中に動くことは推奨されていません。想定外の事態、不具合が引きおこる恐れがあります。警告、警告。』
知ったことか。進化が完了するのを待っていればリンピオが殺されかねない。吾輩の体が動かないということは無さそうであれば動く!
アナウンスの警告を無視し、吾輩は力の限り駆け――って速っ!?思った以上のスピードで吾輩はオークソルジャーとリンピオの間に躍り出ることが出来たである。
「っ!?ネコか!」
「すまぬ。待たせたであるな……っと!!」
吾輩共々リンピオに止めを刺さんと振るわれたオークソルジャーの剣を尻尾で弾き返そうとと振るった。――のであるが、まだ体が慣れていないのか、尻尾は剣ではなく奴の腕に向かった。
狙いは外れたが仕方がない。これでも軌道をずらすことぐらいは……あれ?吹っ飛んだ?剣じゃなくて……オークソルジャーの腕が!?
「ブギァ!!」
オークソルジャー自身も自分の身に起きたことが理解できずに目を丸くする。
自分の腕が飛んでいくのをただ茫然と見つめ、理解した瞬間に痛みがようやく追いついたようで酷い悲鳴を上げる。
もう1体のオークソルジャーもオークジェネラルでさえもこの状況に怯んでいるようであるな。……よし。
今がチャアンス!!
「リンピオ、下がっているである!」
「お、おう。でもお前何か蒸気発してないか!?」
蒸気?何を言っているんであるか、コイツは。
リンピオを下がらせた吾輩は、身体の中を迸る熱い何かに身を任せ、失った片腕を抱え悲鳴を上げるオークソルジャーに襲い掛かる。
接近した吾輩に、痛みのせいで気付くのが遅れた様子のオークソルジャーだが、ンなもん吾輩の知ったところではない。
「"魔爪"ェ!」
吾輩の声に合わせ魔爪が出現する。ほう!先程までの魔爪と違い、1つしか現れなかった魔爪が吾輩の爪の数に合わせ、5つも現れ、更に煌々と輝いているではないか。
オークソルジャーの頭上から奴に向かって
ちっ、まぁやってしまったものは仕方ない……次である。
残ったオークソルジャーはバラバラにされた仲間を目の当たりにし、当たり前ではあるが怒った。
「ブガァ!」
「ブモオオオオオオオオオ!!!」
何やらオークジェネラルがオークソルジャーに向かって何か言ったが、ソルジャーの耳には届かず、ソルジャーはブンブンと剣を振り回し吾輩に襲い掛かってきた。
怒りに任せての攻撃のため、あまりに軌道が読みやすいであるし……それを避ける必要すらないという自信が吾輩にはある。
吾輩は真っ向から魔爪でソルジャーの攻撃を受け止め、そのまま振り抜いた。魔爪は剣をものともせず怒れる豚ごとスパッと両断。綺麗な断面を作り上げたである。
「クハッ」
弱い。先ほどまで苦戦していたのが嘘のようである。こんな奴らに吾輩は苦戦させられていたのかと過去の未熟さを悔いるのと同時に楽しさすら感じていた。
蹂躙する楽しさを――
さて、残ったのはオークジェネラル。奴は忌々し気に吾輩を睨んでいるが、理性を保っているようで部下が殺されても激情に身を任せず吾輩と距離を取って出方を見ているようだ。
小癪な。豚と言えども
だが、吾輩とて逃がすわけにはいかない。今日は緊急依頼に集中していたからあまり意識していなかったが、こやつらはやはり美味いのであろうか。
オークの上位種というのだから、味の方も相当なはずである。おっと涎が……
吾輩が涎を垂らしながらじりじりと近づくとジェネラルもじりじりと後方へ下がり吾輩と距離を置こうとする。
決して背中は見せないのであろうな。後ろを向いた瞬間に吾輩が襲い掛かるのを分かっているのだからな。
睨みあいから生まれた硬直状態――それを先に打ち破ったのはジェネラルだ。
「ブギィ!!」
覚悟を決めたのか、ジェネラルは自身の剣を強く地面に突き刺した。
覚悟というのは諦めの方かと思ったが、違う。突き刺した瞬間に地面が揺れ始め大きな音をたてはじめる。
地震……?いや、地震であるならば奴の周りの地面が隆起して雪崩れこんでくるわけないであるよなぁ!
まさかこんな隠し玉を持っていたとは……クク、だがこれは丁度いいであるな。吾輩の進化したメインウェポンの威力を見定める時である。
吾輩は魔爪を引っ込め、流れる土に向かって右前足の肉球を叩き込んだ。
「"猫パンチ"!」
猫パンチと土流のぶつかり合いから大きな爆発音と衝撃が周り一帯に響き渡る。猫パンチは土流を霧散させることに成功させ、土流を発生させたジェネラルは余程大量の魔力か体力を使ったのか片膝をついてぜぇぜぇと苦しそうである。
もはや奴に戦う力は残されていないようであるな。吾輩が近づいても睨むだけで逃げこともできないようだ。
「ではな、オークジェネラルとやら。」
そう告げ、吾輩は尾を奴の顔のポチによって血塗れとなった鼻から脳天まで貫通させ――戦いを終わらせた。
『進化は完了。黒魔猫は漆黒魔猫と進化しました。』
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