第50話 金髪猫耳女である!?

 それは何の変哲もない格闘術でよく見かける……掌底であったか?という技に酷使していた。手からビームが出るわけでも、火が出るわけでも無い。

 ただ掌で巨オークの腕にぶつけただけなのだが、か細い腕からは想像できないほど凄まじい力により、巨オークの身体は吹っ飛んだ。


 あまりの衝撃的な光景に吾輩もリンピオも言葉を発せず、ただ口をあんぐりとさせていた。正直、これが夢だと言われれば信じてしまえそうである。


「流石はオーククイーンから生まれた個体。この程度の攻撃では死なない。」


 えっ、あんなの喰らっといて巨オークまだ生きているであるか?しかもそれに関して金髪猫耳女全く動揺してないであるな。

 ってかこいつ本当に誰であるか。吾輩全く知らんのであるが。リンピオなら何か知っているであるか?


「リンピオよ、奴は誰であるか?」

「……あの人はAランク冒険者のカルラさんだ……俺もギルドで一回しか見たことねぇんだけどな。」


 ほぅ、彼女がAランク冒険者なのであるか。なるほど、ランクに違わぬ化物のような強さの持ち主の様であるな。

 その攻撃を食らって生きてる巨オークも巨オークである。


「これより止めに入る。」


 カルラなる者は、誰に対してかそう呟くと膝を折り、人間とは思えぬほど高く跳躍した。

 そしてそのまま――未だ立ち上がれず地面に仰向けに倒れたままの巨オークの腹に向かって、まるでライダーキックとでも言えそうな蹴りを叩き込んだ。


「……ッ!!!」


 体をVの字に曲げ、声にならない悲鳴を上げた巨オークは……呆気なく絶命した。

 え、えぇ……瞬殺してしまったであるぞ。こいつがオーク討伐の最初っから参加していればこのような事にはなって無かったのではないのだろうか。


 カルラは再び高い跳躍をすることで巨オークの腹から降り立ち、吾輩たちの元に歩いてきた。

 見た限り相当な運動量のある動きをしたはずなのに、その顔は平然としており疲れなど微塵も感じさせなかった。


「ジャイアントオーク、死亡確認。――さて、そこのあなた。」

「はっはい!?」


 声をかけられたリンピオは面白いくらい体をがちがちに固め、いつもの声からは想像できないほどの高音で返事を返した。

 緊張し過ぎであろう……


「名前を確認したい。あなたはリンピオで、その抱えてる魔物はネコ。

「は、はいそうです!でも何で俺の名前を?」

「ここに来る前に2人の冒険者に頼まれまして。あなた達を助けてくれと。」


 2人の冒険者……?あぁ、コーリィとロッテであるか……2人がこの強力な助っ人をよこしてくれたのであるか、ありがたい。


「最初は無視しようと思った。」


 ヴぉい!無表情でさらっと言いやがったであるなコイツ!絶対この顔は悪いと思っていないであるぞ!


「ただギルド長にもこちらを最優先してくれと頼まれた。仕方なく、こうして参上したという訳。」


 こいつを動かしたのは実質ギルド長であったか。後で礼を言っておくであるか。

 って、ん?何か奴の視線が吾輩に移って……?

 ん?あれ?吾輩リンピオの肩に乗ってたはずであるよな?何で吾輩、カルラに抱かれているのであるか?


「あれっ!ネコ!?」

「しかし、来てみて正解だった。こんなに可愛らしく、しかもどこか惹かれる魔物に会えるだなんて。」


 カルラは一瞬でリンピオの肩から吾輩をかっさらったとでもいうのか!?吾輩、ちっともそんな感覚無かったであるぞ!

 音立てず素早くリンピオに近付き、優しく丁寧に、繊細に吾輩を持ち上げ、瞬時にリンピオと距離を離したというのか!何という技術の無駄遣い感である。


 しかもこいつ、吾輩の撫で方をまるで熟知しているような心地よい手つき……猫耳だとこの世にいない筈の猫の扱いまでわかるのであろうか。


「私と……いえ、ケット族と似た耳。もしかしてあなたは……」


 ケット族?確かギルド長と話していた時にもそんなこと聞いたような……あぁ、猫耳を持った種族。つまりはこいつがケット族であるか。

 でも不思議であるよな。何で猫がいないのに猫耳の獣人はいるのであろうか。

 カルラに撫でられながらもそんなことを考えていると吾輩たちを巨大な影が覆った。

 まさかまた新手だと思い、視線を上に向けてみると――

 かの有名なあれが飛んでいた。近い種なれどもワイバーンとは比べ物にならないほどの風格を持った魔物


「ドラゴン!?」

「あ、やっぱり喋った。」


 あ゛しまった!つい声を!で、でもあれ?こいつそんなに驚いていないである……?


「何故驚かないである……?」

「別に。私ほどの冒険者ともなれば言語を理解する魔物なんてたまに見る程度。それにあなたは私の事を観察していたようだしそれなりに知能があるのは察していた。」

「マジであるか……」

「マジである。」


 真似すんなである。くそっ、こいつはペースがつかみにくい奴であるな。

 苦手なタイプである。

 

「それよりもである。あのドラゴンは何であるか?あれも倒さにゃならんのであるか?」

「あれ?あれは違う。あのドラゴンは従魔。あれの背中にAランクの魔物使いとギルド長が乗っている。あれでオークの残党とキングとクイーンを叩くつもりらしい。」


 えぇ……ドラゴンまでも従魔に出来る奴がいるのであるか?それはまた夢がある職業なのであるな、魔物使いとは。

 それにギルド長まで一緒とは。確かにギルド長も出陣するとはギルドカードに記載されていたであるが、ドラゴンに乗ってとは誰が想像できたであろうか。


「じゃあ私は仕事の続き。」

「ん?まだ仕事があるのであるか?」

「あなた達を無事送り届けること。これからアステルニに帰還する。」

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