第51話 カルラにお礼である

 アステルニには急ぐ必要はないからと徒歩で帰還していた。

 またオークが追ってくるかもしれないし、走った方が良いのではないかとリンピオがカルラに聞いてみたら


「平気。もうオークがこちらに進んでくることはない。」


 そんな悠長なことを言って大丈夫なのかと思ったのであるが、後方からどっかんどっかんと聞こえるし、ギルド長や上位ランクの冒険者が暴れているのであろうなぁ……

 ちなみに吾輩はずっとカルラに抱っこされていたである。



 ふぅ、ようやくアステルニの門が見えてきたである……カルラは平気と言っていたが、やはりいつか襲ってくるのではないかと気が気じゃなかったである。

 しかし、こうしていつも通る門を見ると安心するであるなぁー……ん?門から全速力でこちらに向かってくる影が。

 言うまでもなく……コーリィであるな。


「ネコ様ぁああああああああああ!ご無事ですかぁあああああ!!」


 ぐふぇ!コーリィは吾輩が無事だということの感動のあまり勢いよくカルラの腕の中から吾輩を奪い取り胸に埋めた。

 ん、頭に水滴が当たる感覚がしたである。だが、雨は降っていない筈……あぁ涙であるか。


『すまないであるな、コーリィ。』

『心配……しました!どうかご無理はなさらないでください!』


 あーあー、可愛らしい顔をぐちゃぐちゃにしてまぁ……相当心配をかけてしまったみたいであるな。だが、間違った判断はしていないと思っているし、今後また同じような事があったらまた吾輩は同じことをしてしまうであろうな。

 その度に泣かれると思ったら罪悪感はわくであるが。


 散々吾輩を抱いて泣き腫らしたコーリィは、カルラとリンピオに対して深々と頭を下げた。


「カルラさん、ネコを救っていただいてありがとうございます。後リンピオさんも。」

「同業者を助けることは当たり前の事。気にしないで。」


 どの口が言っているであるか、この金髪猫耳女。最初は渋ってギルド長に言われてようやく行く気になったくせに!

 まぁ助けられたことは事実であるけど。


「俺のついで感が半端ないが……まぁ俺は借りもあったしな。」


 どこか素っ気なくリンピオは言うが、顔が少し赤らめているし照れているのであるかな?美少年ならまだしもガタイの良い男のテレ顔見てもなぁ……

 というか、リンピオのコーリィに対する視線がどこか熱いような。気のせいであるか?


「ん?そういやコーリィさん。ロッテはどうしたんだ?」


 言われて見れば確かに、ロッテがいないであるな。


「ロッテはポチの治療に付き合っていますよ。結構酷い怪我でしたが、一命はとりとめたようです。」


 うぅむ、オークジェネラルにコテンパンにやられてしまったであるからな。

 必要があれば吾輩も癒しの肉球で治療すべきであろうな。

 冒険者ギルドで治療を受けているらしいのでカルラも一緒に討伐報告を含めて向かうことになった。


『というかネコ様!先ほどは感動のあまり気づきませんでしたが、そのお姿はどうされたのですか!?』


 あぁ、吾輩進化していたの忘れていたである。

 コーリィであれば吾輩の進化した姿と進化前の姿の違いが分かるのではないのであろうか。


『あの窮地を乗り切るために、コーリィが摘出してくれていた魔核を一気に食べたら進化したのである。お前から見るに尻尾以外に変わりどころはあるであるか?』

『進化ですか!流石はネコ様……で、お姿ですよね。基本的にはネコ様のお素晴らしい姿が残ったままですが、変わられたところと言えばまず毛色や尻尾ですかね。』


 その部分は吾輩からでも見えたであるな。尻尾は3本に、毛色は深みのある黒色に。

 が、コーリィが言うには、黒の中にもどこか光沢感がある黒色だと言っていた。

 漆黒魔猫の名前の由来はそこから来ているのであるかな?


『他には何かあるであるか?』

『目ですね。』

『目であるか?』


 ほう、目も変化していたのであるか。流石に自分の目は鏡でも使わない限り見えないであるな。どんな変化をしたのか。


『えぇ、今までネコ様の目の色は右目金色左目青色でしたが、今のネコ様の目は右目金色左目銀色です。』


 片目の青色が銀色にであるか?

 うーむ。尻尾に関しては3本になって攻撃のバリエーションも増えるのだろうが、目はどうなのだろうか。これ、進化してこうなったのであれば何か意味があるのであろうか?


 もしかしてスキルに瞳術みたいなものが増えているのかと思い、ステータスを開こうとしたが、丁度冒険者ギルドに到着したので確認するのは後にしておくである。


「あ、そうだ。カルラさん、今回の事で何かお礼がしたいのですが……」

「構わない。さっきも言ったが、当たり前のことをしただけ。」

「だとしてもです。私の命よりも大事なネコを救っていただいたんです。お礼をさせてください。」


 コーリィは律儀であるなぁ。本人がいいと言っているのだから別にいいと思うのであるが。ギルドの前で「お礼をしたい」「気持ちだけで結構」の押し問答が繰り広げられ、折れたのは……


「……分かった。そこまで言うなら受け取る。」


 意外にもカルラであった。

 まぁ金を手放すのは少し惜しいであるが、こうでもしないとコーリィの気は治まらないであろう。


「良かった。Aランクの方となれば少ないかもしれませんが、私の報酬の半分を御譲りしますので……」


『ネコ様、申し訳ありません。私はどうしてもお礼がしたいんです。お渡しした分は私が全力をもって稼ぎますので。』

『よいである。ジェネラルやソルジャーも狩って予想以上の金が入りそうであるしそのくらいは構わんである。』


 半分になったところで損することは無いであろう。命と引き換えだと思えば安いものである。


「いや、金は必要ない。」

「えっ?それでは……オークジェネラルの肉なら?」


 まぁBランクのオークの肉なら欲しいという者はいくらでもいそうであるからカルラもそっちの方がいいのだろうか。

 と思ったであるが、これもまたカルラは首を横に振り違う事を示す。

 では何かと聞くとカルラは口を開き――


「私が欲しいのは……ネコ。」

「このお話は無かったことで。」


 即答!?

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