第52話 ポチの容体である

「お礼がしたいって言ったのに……」

「カルラさん、私が命よりも大事なネコって直前に言ったの忘れたんですか!?」

「忘れた。」


 言ったであるよなぁ……絶対言ったであるぞ……?しかしカルラ自身悪気はなさそうであるから恐ろしい。ほんとこの女は調子が狂う……

 カルラは吾輩以外ならお礼はいらないという事で、コーリィも諦めた。



 ギルド前でのひと悶着が終わり、吾輩たちは中に入った。冒険者ギルド内はそれはもう大騒ぎで職員の中でも非戦闘員の者が書類片手に走り回っていた。

 冒険者も冒険者で怪我をした者、疲れ果てた者で溢れかえっていた。こやつらは吾輩たち同様に帰還命令の出たDランク以下の冒険者なのだろう。


 コーリィはいつもの頭の薄い職員を見つけ、ポチが治療を受けている場所を案内を頼んだ。忙しい筈の頭の薄い職員はふたつ返事で了承してくれた。

 職員から聞くに、従魔はまた冒険者とは別の治療室があるらしく、ロッテも同行しているとのことらしいである。


「ロッテさん達がいるのはここですね。」

「ありがとうございます。お時間を取らせてしまってすみません。」

「いいんですよ。皆さんは必死に闘ってくださってるんですから、闘えない私達もこれくらいはね。」


 通された部屋には色んな魔物がベッドの上に寝かされており、それぞれの魔物使いであろう冒険者が心配そうに魔物たちを見守っている。

 こうやってみると従魔もたくさんいるのであるなぁ……スライムに鳥型、虫もいるのであるか。


 その中の一角にロッテとポチはいた。ロッテは吾輩たちに気付くと疲れたように笑いかけた。


「悪いわね、みんなで来てくれて。」

「いいのよ、仲間でしょ?……それで、ポチは大丈夫?」

「えぇ、さっき治療が終わったの。安静にしていればすぐによくなるって。」


 ベッドの上ではポチが包帯がぐるぐると巻かれ、毛があまり見えていない状況だが、確かにすやすやと寝息をたて安らかに眠っている。

 この様子だと本当に大丈夫の様であるな。癒しの肉球の出番はなさそうである。


「あ、そうだ。コーリィ、私一つ聞きたいことがあるんだけど……」

「何?」

「あなた、オークジェネラルから逃げる時……ネコの事"ネコ様"って言ったわよね?あれ、どういうこと?」

「あ。」


 あ。


「あー確かに言ってたよな、ネコ様って。」


 完全に失念してたである……そうだ。確かにこいつらを逃がす際、コーリィが感極まって吾輩の事を様付けで呼んでいたである。

 うーん、どうしたものか。ロッテだけなら聞き間違いで済んだかもしれないが、リンピオも聞いている。更に言うとリンピオは吾輩が喋れることを知っているが、コーリィとの関係性まで話していない。


『ど、どうしましょうネコ様……』

『う、うーむ。話してもいいかもしれぬが、ここではなぁ……でもロッテはまだ離れることは出来なさそうであるし……む、そうだ、コーリィ。ちょっとカルラに聞いてみてほしいことが。』

『かしこまりました。』


 そう、何気にカルラも吾輩たちについてきてこの部屋にいるのだが、我関せずと言った感じで突っ立っているのである。


「あの、カルラさん。音を遮断する……なんて出来ます?」

「音を遮断?……闇魔法で出来るけど、私魔法は不得意だから少しの範囲しかできない。」

「あ、ぜひそれをお願いします。」

「ん。"サイレンスルーム"」


 おぉ、出来るかどうか不安であったが、可能だったようで安心したである。しかし音を遮断する闇魔法であるか。吾輩も覚えたい魔法であるな。

 さて、カルラが魔法を唱えると薄暗い色をした真四角の空間を吾輩たち4人と2匹を包み込んだ。


 突如として発動された魔法に2人は勿論困惑。だが、これで心置きなく話すことが出来るであるな。


「驚かせてごめんね、ロッテ。でもこうでもしないと話せないから……」

「ど、どういうこと?」

「こういうことであるぞ。」

「は!?今の声……ネコ!?ってあっ!」

「ギャイン!?」


 大声を出してしまったことに気付いたロッテは焦って口を抑え、周りを見渡すが、サイレンスルームの外にいる冒険者、また従魔は誰一人として音に気付いていない様子だ。

 なるほど、これは中々に優秀な魔法であるな。ロッテの声で一瞬吾輩の耳がキーンと来るほどの音が外部に少しも漏れていないのであるからな。

 その代りポチが起きてしまったであるが。


「……落ち着いたであるか?」

「え、えぇ。でも驚いたわ……話せるだなんて」

「ワンワン!」


 そりゃそうであろうな。Aランクのカルラでも話すことのできる魔物はたまに見る位なのであるから、低ランクのロッテからしたら衝撃的であろう。

 というかポチ!起きた途端に嬉しそうに吾輩を嘗め回すでないわ!病み上がりだから無碍にも出来ぬであるし!


「さて、コーリィが吾輩を様付けで呼ぶ理由であったな。ではまず吾輩とコーリィの出会いから話せねばならぬな。」


 ここから話したのはギルド長に話したことと基本的には同じことを話し、コーリィが吾輩を様付けの理由については……奴隷云々は話すわけにはいかぬであるから、今話しながら考えているである。

 お、そうだ。


「コーリィは吾輩が高尚な魔物だと思っていてな。それで様付けで呼ぶのである。吾輩自身何でもないただの魔物であるからなぁ」

『その辺は間違っていないですね!ネコ様は高尚ですから!』

『いや、違うであるから。』


「ふーん。なるほどねぇ……ま、ネコって見たことも無い魔物だし気品も感じられるし様付けも無理ないかもね。」

「だな。」


 え、我ながら無理あるような気もするであるが?気品あるのであるか?えー?

 だ、だがまぁこの説明で全員納得したようで良かったである。


「ネコは自分の生まれたところ分からない?」

「さてな。もう忘れてしまったである。」


 日本だと言ったところで信じるわけでも無いし、忘れたってことでいいであろう。

 皆が納得した中、カルラだけは何か思うところがあるのか、口元に手を当て考える仕草をしていた。


「カルラ?どうしたのであるか?」

「……何でもない。」


 そう言う時は大抵何かあると思うのであるが……触れないでおこう。

 全員に吾輩が話せることを話さないことを口止めしておいて今日の所は一旦解散という事になったである。

 というのも、D,Eランクの冒険者の帰還により、受付や解体所が今パンク状態らしくまともに取り合えないとのことらしい。

 また後日、3人で集まることになったのである。

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