第95話 リンピオはどうするであるか?

「リンピオ、お前の腕は戻らない。そして冒険者稼業も難しい。」


 1週間後、目覚め、ベッドの上で横になっていたリンピオに我輩は事実を突き付けた。

 最初、ロッテにはリンピオのためにならないからと言う事を反対されたが、いずれ気付いてしまうよりも先に知っておくべきだと我輩は伝えることにした。

 リンピオたちが目覚める前、キッカに聞いたのである。リンピオの腕を再生させるものはいるかどうかと。

 その質問に対して、キッカの答えはNOであった。

 キッカ曰く、


「残念だけれど、今この街にいる冒険者の中に部位を再生させる魔法を持つものはいないわ。そういう回復薬があるといえばあるけれど、そういう品は売られて貴族や王族に渡って下々の手には渡らないの。」


 とのことであった。であれば王族、つまりはライアット王にでもと頼めばあるのではと我輩は考えたが、すぐにその考えは捨てた。

 王族にとってそれほどまでに強力な回復薬は貴重で、あるかないかで国の命運も変わってくるらしい。そんなものを軽々しく一冒険者に使ってくれと頼めるであろうか。少なくとも我輩は無理だ。もし仮に世界を救えと命じられた勇者であれば話は別かもしれぬがな。


「まぁ……そう、だよな。これじゃあな。」


 リンピオは沈鬱な顔で無くなった右腕に視線を移した。

 その声もどこか、痛々しいものを感じさせる。

 それを感じたのは我輩だけでは無いようで、リンピオより一足先に目を覚ましていたコーリィが泣き出しそうな顔をしていた。

 責任を感じているのであろう。ロッテから聞いたが、リンピオはコーリィを庇ったがために腕を斬り落とされたらしいであるからな。


「すみませんリンピオさん……!私をかばったために……」

「あぁいや!あそこで俺が割って入らなきゃコーリィさんが危なかったんだ!寧ろ俺の右腕だけで済んでよかったよ本当!」

「ですが……!」

「コーリィ、落ち着くである。リンピオに言う通り最悪の結果ではないのだ。それに責任であればすぐに駆け付けられなかった我輩にもあるしこの話は終わりである。」


 コーリィはまだ何か言いたげだったが、我輩の一言で押し黙った。

 リンピオは困ったように頭を掻き、ロッテは浅くため息をついた。

 さて、ここから本題であるな。


「ネコ。教えてくれるのよね、闇ギルドが出てきた理由。」

「うむ。」


 フォルとライザと戦う直前約束したであるからな、ちゃんと説明すると。

 コーリィからも、この2人には隠し事をせず全て正直に話してほしいと頼まれたであるからな。

 だが、どこに耳があるか分からぬ。カルラが使用していたサイレンスルームが使えることが出来れば完璧なのだが、まだ覚えていない。なので、ポチに周囲の警戒を頼んでおいた。

 ポチであれば優れた嗅覚やらで近くの人間を把握できるであろう。

 我輩はコーリィについて詳しく話した。もちろん貴族の娘であったことも我輩の奴隷ということもだ。

 話す度話す度に2人は変な顔だったり得心がいったと言いたげな顔もしていた。

 話し終えるとロッテは大きくため息をつき、リンピオは苦笑いを浮かべた。


「いやもうね、情報量多すぎで大きすぎなのよ。いや、コーリィ食べ方様になっているなーとか思ってたわよ。あれー?もしかして貴族?まっさかー!とか思っていたのよ?当たりなの!?」

「しかもかの英雄のグラァードさんとビレルレさんの娘だったのか。」


 え、英雄……奴ら英雄と呼ばれるほど凄い存在だったのであるな。サラブレッドコーリィ……


「私のせいで2人に迷惑をかけて……本当にごめんなさい!」


 自分のせいで2人を巻き込んでしまったコーリィは罪悪感に耐え切れず物凄い勢いで頭を下げた。床に水滴が落ちていることから泣いているのだろう。

 コーリィの謝罪にリンピオとロッテは視線を合わせると同時に言った。


「「そこは別にどうでもいい(の)」」

「え?」


 涙で目を腫らしながら呆けた顔を上げたコーリィに我輩は思わず笑ってしまった。責められるかと思っていたのか、コーリィは困惑しているようだ。


「あのねぇ、私たちは危険を承知で望んでダンジョンに潜り込んだのよ?帰ることもできたけど進んだのは私たちの意思よ。」

「あぁ。そもそも途中から完全に俺たちはお荷物だった。さっきも言ったけどそんな中で腕1本なら安いほうさ。コーリィさんが気にすることじゃない。」

「そうよ、気にしすぎ。」


 朗らかな笑顔で気にするなと口にする2人にコーリィは我輩に自分はどうすればよいのかと言いたげに焦るような辛そうなそんな目を向けた。

 我輩は尻尾でコーリィの頭をポンポンと軽く叩き、告げた。


「諦めるである。お前の仲間はこんな奴らであるからな。許されてしまえ。」

「……!はい!」



「リンピオよ。お前、今後はどうするのであるか?」


 話は変わってリンピオの今後について聞くことにした。

 正直我輩の中では決まっているのであるが、本人の意思を聞いておくことにしたのである。


「俺は、パーティを抜けるよ。この腕じゃな。皆の足を引っ張るだけだ。」

「であるな。お前がそう言ってくれて良かった。」


 治す手立てがあるのであれば連れて行ってもいいのであるが、残念ながらその手がない。

 ならばここでキッパリ分かれておいたほうがお互いのためになるであろう。

 我輩はせめてものの手向けとして小袋を取り出し、リンピオの腹の上に放り投げた。

 リンピオは訝しげに小袋の中身を確認すると、その顔は驚愕に変わった。

 袋の中に入っていたのはたくさんの金貨であった。

 これは何を隠そう、今回の依頼の報酬……だけというわけではない。

 まずダンジョンの踏破分。これは最初に踏破したのが、公認されていない闇ギルドの者であった故、正規の者であり2番目に踏破した我輩たちがもらえる正当な報酬なのだ。

 それに加え、ダンジョンでゲットした数々のアイテムなんかもギルドで買い取ってもらっていたのだ。その中にはグラディウスサーベルタイガーの牙の1本だったり、ネコババで回収したフォルライザの装備(あの炎の剣とシローの武器以外)もうっぱらった。

 やはり踏破できるほどの装備だったのでそりゃもう高く売れたのである。


「コーリィを救ってくれたせめてものの礼である。仕事が見つかるまでの間の生活費にしてほしいである。リンピオよ、出会いはぶっちゃけ最低ではあったが、楽しかったであるぞ。」


 我輩はそうリンピオに言うと、1匹で……あ、ポチも来るのであるか。改めて2匹で部屋から退出した。

 それに続くようにロッテとコーリィも続くのだが――


「あ、コーリィさんちょっと待ってくれ!」


 とリンピオから呼び止められ、コーリィは首をかしげながらもそれに了承し、部屋に戻った。

 何事かとコーリィの後を追おうと思ったが、ロッテにひょいっと抱えあげられてしまった。


「何するであるか。」

「大丈夫よ。大丈夫だから2人にしてあげましょ。……あんた微妙に抜けてるわよねー」


 えぇ……なぜ我輩ディスられてるのであるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る