第90話 忌むべきスキルです。
「……ライザ。どこまでならいいんだったか?」
「生きてりゃ良かったんじゃなかったか?別に手足もいでようとあいつなら治せんだろ。」
手足をもぐだとか、何やら不穏な話をしていますね。あまりそういったことをされると困るんですけど。
ですが、あまり状況はよろしくありませんね。
リンピオさんは何とかあの剣士の攻撃についていけているようですが、それでも大分体力を消費しているのか肩で息をしています。
「リンピオさん。」
「すまん……正直きつい。アイツ、明らかに遊んでいやがる。」
「ポチ、あなたは大丈夫?」
「クゥン。」
確かにあの剣士、未だ余力を残しているようで、リンピオさんとポチとは対照的に余裕な表情です。
魔術師の方は全然表情を変えないので読めませんね……
「一番厄介なのはやっぱりコーリィ・ディアントだな。さっさとやるか。」
「だな。"アクエリアス・ウェイブ"。」
っ!津波!?あまりにもでかすぎませんか!?
ダメです。これほどの力、ネコ様じゃないと退けることは……いや!ダメです!何を弱気になっているんですか私は!
ネコ様がいなくても戦えなければ、あの方の後ろをついて歩くことはできません!
「ロッテ!魔法の力を上げることはできる!?」
「えぇっ!?魔力ブーストって私成功したためしがないんだけど!」
バッファーの魔法のことはよくわかりませんが、あの勝気なロッテがそこまで言うのなら難しい魔法なのでしょう。しかし、そうも言ってられない状況なのは彼女も分かっているはず。
頭を掻きむしると意を決したように眼光を鋭くし魔法を唱えました。
「失敗しても恨まないでよね!"インテリジェンス・ブースト"!」
……失敗したとしても無茶振りしたのは私ですから恨むはずなどないのに。
ですが、ロッテは本番に強いようで安心しました。魔法は正常に発動され、私の体の中に力が満ちます。これはストレングス・オールとはまた別の力ですね。
これならば!
「ありがとう、ロッテ!”フレイムウォール”!」
ロッテの後押しで私のフレイムウォールは従来のものよりも高く厚く、そして高温を発する炎の壁へと進化しました。
フレイムウォールは大量の水を物ともせず接触した内からどんどん蒸発させていきます。
壁から発せられたジュウジュウと水が蒸発する音は次第に小さくなり……音はしなくなりましたが堰き止めきれたのでしょうか?
安心して私が力を抜いた途端――!
「いけねぇなぁ!油断しちゃあよぉ!」
突如、炎の壁に剣が刺し貫かれた。この剣は、あの剣士の!!
フレイムウォールはフレイムストーム同様に形を崩しあの剣に吸収されてしまい、剣士の姿が露になる。
まさか、津波は私に私たちの視界を遮る魔法を唱えさせるための罠!?
あまりの出来事に体がついていかず、動くことができない。
くそっ!動け私の体!
剣士は笑みを浮かべると炎々と燃える剣を私に振り下ろした。
「あぶねぇ!」
ドンッ!強い衝撃が横から私を襲い、私はそれに抗うことができず横に吹っ飛ばされました。
地面に叩きつけられながらも、衝撃の正体を知ろうと視線を向けると……血がまき散らされていた。
そこには、私のいた場所には、リンピオさんがいた。
血が噴き出ているのはリンピオさんの腕から……!?
「リンピオさんっ!!」
「あぁん?ンだよ、てめぇかよ……邪魔くせぇ」
剣士は心底残念そうにため息をつき腕を斬り飛ばされた痛みに脂汗を浮かべていたリンピオさんを蹴り飛ばし、リンピオさんはそこで耐え切れなくなったのか、痛みに叫び声をあげた。
「があああああああああっ!!!」
「グワぅ!!」
「るっせぇ犬っころ!」
「ギャイン!」
仲間を傷つけられたポチは怒りから牙を剥き剣士に躍りかかりますが、剣士は事もなげにポチを殴り飛ばした。
ポチは気絶したのか、ぴくぴくと痙攣している。――まずい!
私は急ぎ体を起こし走り出す。
「あー、順番滅茶苦茶になっちまったがいっか。犬っころも動かなくなったし、バッファーのてめぇも死んでくよな?」
そう、奴は次はロッテに狙いを定めてしまった。
ロッテは気絶したポチを抱きかかえ、剣士をにらみつける。
ポチ以外の攻撃方法を用いていない彼女には何もできない。簡単に殺されてしまう!
――躊躇っている場合じゃない!
私は走りながらも瞳を閉じ頭の中でスキルを唱えた。忌まわしきも私の力の一端であるネコ様にも隠していたスキルを。それは――
"バーサーカー"
途端、私の頭の中が炎に包まれたかのような錯覚を覚えた。
熱い、あつい、アツイ、atui、アツ……アツイ。
頭の中の熱は次第に喉を通り心臓を通り、手足を、体中を循環する。
巡り巡った熱は私を私の代わりに動かし始める。
落ちていた剣、リンピオさんが使っていた剣を走りながらも軽々と拾い上げ、ロッテに向かって歩を進めていた剣士に斬りかかった。
「何?」
近づく音に反応したのか、剣士は私の剣を受け止めたが、その顔には笑みがない。
まるで信じられないものを見るかのような目を私に向ける。
視線を浴びた私は熱に動かされ、口角を上げて声を発した。
「オマエ、コロシます。」
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