第88話 シローの能力である!

 ……痛いであるな。尻尾が切断されたんじゃ当たり前ではあるが。

 まさか我輩の尻尾が切断されてしまうとは、不思議なことに血は出ていないようであるな。

 にしてもあのナイフ、相当なものであるな。尻尾の硬度を確かめたことはないが、強靭さは我輩が身をもって知っている。


『外部から鑑定スキルの干渉を確認。ユニークスキル吾輩は猫であるを自動発動しました。』

「あはは!すごいね君の尻尾!君自身は鑑定できなかったけど、尻尾!相当だよこれ!僕が知ってるものだとドラゴン……いや、それ以上だ!」


 シローは狂気的な笑みを浮かべて切り落とされた我輩の尻尾を掴み上げた。

 我輩本体から離れると、ユニークスキルの恩恵を受けなくなるのであるか……でないと鑑定されるわけがないであるからな。

 何にせよ、こやつをさっさと倒さねば。我輩より弱いかもしれぬとはいえ、フォルとカイザ2人相手はコーリィ達にはきついである!


 我輩は魔爪を起動。さらに火車を同時起動させ、紫の爪に紫電を迸らせる。

 そして、一気に駆け出しシローの背後を取り魔爪を振りかざす。これで終わればよいのであるが……


「あはっ!速い速い!やっぱり僕の知ってる猫じゃないよね!っていうか尻尾鑑定したら魔物って出たもんね!漆黒魔猫なんだっけ?」


 まったく焦った様子も見せず魔爪をナイフで受け止められてしまった。

 たとえ魔爪の攻撃が阻まれようとも、火車の雷によって痺れることを期待していたのであるが、まったくその様子ないであるな!絶縁体であるか、あのナイフ!意味わからん!

 だが!得意げになっているのも今のうちである!人間とは違い我輩の攻撃の手段は手のみではない。1本斬られたが、まだ尻尾は2本残っている。

 魔爪に気を取られているうちに尻尾を鋭く振り、ナイフを持っている腕をお返しに断ち切ってくれる!


「うわっ!?」


 気づいたところでもう遅い!シローはどうにか避けようとしたようであるが、下手に避けると魔爪が襲い掛かる。

 結果、我輩の尻尾は奴の腕の切断に成功し、魔爪を阻むものは無い。そのまま体を引き裂いてくれる。

 くれれば、よかったのであるがなぁ……

 我輩が聞こえた音は肉を引き裂き、シローが苦痛の声を上げるといったものではなく、硬い物体にぶつかった音であった。

 魔爪を防いだのは腕だった。しかし、それはシローの、人間のそれではない。

 あまりにも、あまりにもその腕は生物みを感じさせない煉瓦のようなものでできていた。


「貴様!なんであるかその腕は!?」

「この腕?ふふ、いいでしょー!これね、ストーンオーガの腕なんだ!……あぁ、説明が足りないよね?ごめんごめん!僕はね、ユニークスキル"異種縫合"で色んな魔物の部位を自分の体につけることができるんだよ!」


 石の腕をぐわんぐわんと振り回すシローの顔に腕を飛ばされたことによる痛みを感じている様には全く見えない。痛覚麻痺しているのであるか?

 何にせよ厄介極まりないスキルであるな。余程自信があるのかバラしてくれたのは有り難いが……

 というか、あのストーンオーガとやらの腕はどこから現れたのか。と考えていると、シローが自分の取れた腕を拾い上げ、空間に消し去った。もしかしなくてもマジックボックスのたぐいであるか?


「うーん、フォル君があっさり勝てないと認めるなんて珍しいなって思ってたけど本当だね?これは僕も本気の姿にならなきゃいけないか!」


 そういうと、シローは人間のままの指先から赤い糸を某蜘蛛男が如く出し始め、更にナイフで自分の体に傷をつけ始めた。

 明らかな異常行動。そして不穏なワード本気の姿。ヒーローものであれば待つべきなのであろうが、ンなもん好きにやらせるわけがあるか!


 我輩は軽く後ろに跳躍し奴に向け、攻撃を放った。

 ウィンドカッターにグラビティ。火車による電撃炎撃……気味の悪さから近づかずに遠距離で出来得る限りの攻撃を仕掛けたはずだったのだ。

 しかし残念なことに、奴のほうが一歩先に済ませてしまったらしい。


「フフフ、先に皮を入れ替えといて正解だったね。少し遅れたらお陀仏だったよ。」


 その右腕は石とは思えぬほど固い石で出来ており、その左腕はカタカタと音を鳴らし生を感じさせない、まさに骨の腕をしている。

 その肌は、人間とはかけ離れた青く、そして鱗のようなものがついていた。

 その両脚は地面をしっかりと踏みつけ我輩のグラビティを浴びてもちっとも影響を見せない。しかしその足の先は靴ではなく、蹄が存在した。

 その背には鷲の……いや、見た目だけは鷲の巨大な翼をはためかせていた。


 顔だけは人間でそれ以外を人間と呼べるのか分からないそれに対し、我輩は苦々しい笑みを浮かべながら問いかけた。


「貴様は化け物か。」

「違うよぉ?僕は人間だよ。ちょっと色んな生物に力を借りた、ね?」

「奪ったの間違いであろうそれ。」


 我輩の視線の先は、シローの腰辺り。そこには一本の黒い尻尾があり、シローの意思に合わせてひゅんひゅんと動く。

 見間違うはずがない。てめぇ、それは我輩の尻尾じゃねーか!!

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