第133話 いただくのである!

 フォルコが死に、周りに静寂が訪れる。数秒ではあるが、何故だか長いものに感じた。そんな中、不意に手を叩く音が響き、全員の視線がそちらに注目する。音を鳴らした正体はキッカであった。


「さ、解体に入るわよ。少しでも素材を駄目にしたらそれこそフォルコの想いを無駄にすることになる。あなた達、解体も見届ける?」


 テキパキと職員に指示を出し、フォルコの遺体を運び出させ我輩たちに問いかける。まぁ、我輩の答えは決まっているようなものだ。勿論、キッカは信用しているが他のあまり顔を合わせていない職員は信用していないのである。故に監視と言う意味でいたほうが良かろう。


「我輩は見届けるのである。コーリィは……」

「私もご一緒させてください」


 待っていてもいいのであるぞ。と言おうとしていたところを遮られた。顔を上げ、コーリィの視線と交差する。その目には涙を溜めているが、同時に強い意志も感じさせる。こんな顔をしたコーリィを止めるのも野暮な話であるか。


「分かったわ。それじゃあついてきて」


 我輩たちの意思を確認したキッカが先行して地下室の扉から出る。我輩も後に続こうとしたところで、腹に手を回され、持ち上げられ、地面から足が離れる。この場にこんなことをするのはコーリィぐらいしかいないが、何でまた突然。抱えて欲しい時は言うのであるのに。


「コーリィ、何をするであるか」

「大丈夫です、ネコ様。私はいなくなったりしませんから」


 ええい、そんな自分に言い聞かせるように言いながら背中に頬ずりするでない。

 我輩は口ではなく、尻尾でコーリィの頬を軽くはたくことで応えた。んなことは当たり前である。だからそろそろ頬ずりを止めんか鬱陶しい。



 フォルコの解体は何時も利用していた解体所とはまた別の場所で行われた。そもそも普段の解体所では他の冒険者たちの目もあるであるからな。

 作業は一目で熟練と分かる職人5人の手で丁寧に行われた。血を抜き、皮を剥ぎ取り、肉を切り取り、骨を、内臓を、目を取る。ううむ、コーリィが少し青ざめてるであるな。少しとは言え言葉を交わした者が解体されるのは人としてはあまり気分のいいものでは無いであろうな。我輩はまぁ平気であるが。

 さて、解体された部位だが、やはりこれらも丁寧に扱われ、洗浄されたり冷蔵庫に運ばれ保存されたりしている。そして――我輩が待ち望んでいたものが取り出された。それを職人から渡されたキッカは我輩の前まで持ってきた。


「はい、お約束のフォルコの魔核よ?」

「うむ、確かに」


 キッカの手のひらの上で煌々と輝く魔核は、確かにフォルコの体の中から取り出した物。バッチリ見ていたから間違いないのである。

 尻尾で巻き取ることで魔核を受け取り目の前まで運ぶ。近くで見ると、今まで見た魔核の中でも純度と言うべきか、明らかにランクが違うのである。売れば間違いなく大金が転がり込んでくるような品物であろうが、我輩のやることと言えば食べるに限るのである。目を閉じ、我輩はつぶやく。


「フォルコ、お前の命、確かに頂くのである」


 大きく口を開け、フォルコの魔核に噛り付く。本当は一口でいきたかったのであるが、如何せん我輩の口より大きかった。だが、驚くことに食らってきた魔核の中で一番美味いのである。魔物の強さによって魔核の味もまた変わるのであるか?ううむ、謎である。

 そんな謎を抱えながらも魔核を食べ進め、ようやく食い終えると頭の中でお決まりなアナウンスが流れた


『スキル、イーターの効果により九尾の魔核の吸収が完了しました。』


 ……うん?てっきり進化すると思ったのであるが、しないのであるか?ちょっと残念……む?


「ネコ様?どうかされたのですか?」

「し、尻が」

「おしり?」

「尻がむずむずするのである……!」

「おトイレですか?」

「断じて違うの出る!っあ」


 力んでツッコミしてしまったからか、尻から何かが解き放たれた。そしてその正体にすぐ気付くことが出来た。改めて言うが、便ではない!

 尻の方を見ると、3本だった我輩の尻尾が――6本に増えていた。

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ネコは異世界で闊歩する @gin_17_

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