第64話 異世界怖いわーである。

 吾輩、絶賛退屈中である。王都に入るまでなら外の風景を楽しむことが出来たが、今は青い空と空を飛ぶ鳥しか見えぬ。辛いである。


「コーリィよ、まだ城につかぬのであるか?」

「もうそろそろです。ネコ様、もう少し御辛抱を。」

「あぁ、でっけぇ城がどんどん近くなってくるぜ。城壁にも負けねぇくらい高さがあるなぁ」


 ほー、そんなに立派な城なのであるか。

 これはこの王都はだいぶ儲かっているのであろうな。あるいは税金が高いとかそんなところであろうか?

 しかし、吾輩は何をすればよいのであろうか?ギルド長は吾輩が牙剥く魔物かどうか確認したいだと言っていたが……あまり面倒事は好まぬぞ?

 そうこうしていると、馬車は動きを止め、馬車を運転していた御者の男から降りていいと声をかけられたので、言われた通り馬車から降りると――


「ほう?」


 馬車から降りた吾輩の口から洩れたのは、少しの驚きの声だった。だが、これは城の大きさに驚いたわけでは無く、吾輩たちの周りの異様な光景であった。

 一様に同じ紋章が刻まれた鎧に身を包んだ人間が吾輩たちを取り囲んでいるのだ。……あれ?あの紋章、ロディン達の装備についているものと同様の者であるな。

 中には腰に下げた剣に手を伸ばしている者すらいる。

 これは何とも穏やかな雰囲気ではないであるな。とても歓迎されているようには見えないのであるが?


 驚いているのは吾輩だけではない。リンピオやロッテはもちろん、コーリィも覆面の隙間から見えるその目には緊張が走っていた。

 そんな中、真っ先に声を張り上げたのは


「なんだこれは!お前たち、誰の許しを得てそのような行動に出ているのだ!」


 ロディンであった。彼もこの事態は知らされていなかったようで、吾輩たちと行動している時は見せなかった怒りの表情と声で騎士たちを叱咤した。


「そうだぜ?こいつらは正式に召喚されてここまで俺たちが連れて来たんだ。それを歓迎をせず取り囲むたぁどういう了見だ?」


それに追従するようにガゾッドも禿げ頭に青筋を立て周りを睨みつける。

 ニーフィはニーフィで喧しく騒ぐのかと思ったが、ニコニコ微笑んでいるだけで何も言わないのである。いや、本当に黙ってニコニコ笑っているだけなのだがなんか怖いのであるが?

 ロディンの発言から見るに、騎士団の中でも上位に位置するであろうこの3人の反応に、周りの騎士の一部はビクッと震えるものがいたが、黙りこくり、決して陣形を崩そうとはしなかった。


「ッ!てめぇらぁ!何とか言ったら」

「待て、ガゾッド。」


 怒りに拳を震わせ、ズンズンと目の前の騎士につかみかかろうとしたガゾッドを制止させたのは、いつの間にか、騎士とガゾッドの間に割り込んだ背の高い金髪の美丈夫だった。

 奴の胸の装備にも騎士団の紋章がついていることから奴も騎士か。


「おう、団長。これぁアンタの指示か?」

「あぁ、そうだ。……俺もどうかとは思うんだがね。」


 やれやれと言いたげに頭を振る美丈夫は騎士団長であったか。

 ……何でこういう団長とかって揃ってイケメンなのであろうか。別にブサイクだといいわけでも無いが……

 騎士団長は地面に座り静観していた吾輩に気付くと、静かに歩み寄り吾輩を見下ろした。


「なるほど、見たことのない魔物だ。一見何もできない魔物と相違ないが……」

「っ!ネコ殿逃げてください!」


 何かに気付いたかのようにロディンは大声をあげ、吾輩に向かって走り出そうとするが、遅い。既に騎士団長は一瞬とも言えるほどの素早い手つきで剣を取り出し吾輩に振り下ろした。

 ……いやまぁ、こんな実況してる時点で見えているのであるがな?


「"猫パンチ”。」


 吾輩の声と共に放たれた黒く小さな拳は切り裂かれることなく剣を弾き飛ばし……

パキィン…!!


 あ、折れた。吾輩の手ではなく、騎士団長の剣が折れてしまったである。

 あっれー?こう、上に弾き飛ばすつもりで猫パンチを撃ったのであるが?上に飛んだの剣の半分より上であるし。あれ?進化して猫パンチも強化しちゃったのであるか?

 あちゃー、これ吾輩弁償するべきなのであろうか?いやでも斬りかかって来たのはあっちであるしな……

 というか騒がしいであるな。見ると、騎士たちがざわざわと小声で「だ、団長の剣が折れた……!?」「ば、馬鹿よく見ろ!あれはただの鉄の剣だ!団長のいつものやつじゃない!」「そ、それでも折られたんだぞ!?」などと騒いでいるではないか。


 件の騎士団長もは対照的に何も言わずにジッと折れた剣を見てるし……


カツァン……!


 あ、折れた剣の先が落ちて来た。誰にも当たらなくてよかったであるなぁ。刺さったら即死であるぞアレ、怖い怖い。


 さて、どうするであるかな。

 百歩譲って吾輩が忍び込んだ魔物ならいざ知らず、召喚されてやったのにその仕打ちがこれであるよな?何の説明もなしに斬りかかってきたであるよな?失礼千万であるよな?しかも騎士団長であるぞ?

 頭おかしくないであるか?やっば、異世界怖いである。


 吾輩はふぅと一息つくと、くるりとコーリィ達に振り返り告げた。


「よし、皆アステルニに帰るである。」

「「「え!?」」」

「あ、でもその前に王都観光するである。」


 観光はどうしても外せぬであるからな!飯!

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