第113話 何故クマは暴れたのである?
よし、癒しの肉球は問題なく発動したようであるな。顔の損傷は今しがた我輩が尻尾で上顎を叩いたあれであるよな。……不可抗力であるし、治したからいいであろう。
さて、件のクマであるが、先ほどまでの野性味あふれる獰猛な顔つきが、野性味を全く感じさせないほど穏やかな表情になっているであるな。
「クマァ……」
「クマっぽいけどクマらしからぬ鳴き声であるなお前。」
「シ、シューマ!?お前正気に戻ったのか!?
「クーマ!」
主の声にシューマと呼ばれたクマは平気と言わんばかりに明るい鳴き声を上げる。まぁ癒しの肉球で体も回復したであるしな。痛いところはどこも無いであろう。
シューマの四肢を抑え込んでいた冒険者たちは訝しげではあったが、本当に害意のなさそうなシューマの鳴き声に恐る恐るも手を放しシューマを解放した。シューマは解放されるとすぐに主に覆いかぶさるように抱き着き嬉しさを表現した。主の方もクマの愛情表現に慣れているのか笑って倒れずに受け止めている。膂力やべぇ。
「ネコ様、いきなり飛び出さないでくださいよ……」
「む、すまんである。」
人ごみをかき分け、コーリィは我輩のもとにたどり着くと、ため息交じりに抱きかかえられる。
「な、なぁ本当に大丈夫なのか?」
シューマを抑えていた冒険者のうちの一人が我輩に問いかける。まぁ、不安に思うのは仕方ないであるよな。傍目、我輩が前脚押し付けたら正気に戻ったのであるから、いつさっきのような状態になるか分からないのであるからな。我輩からしたら状態異常は消したからもう一度その原因に接触しなければあのように暴れることはないであろうが。
とりあえず我輩はこう答えておいた。
「とりあえずは、であるな。暫くの間外に出ずに発症しなければ大丈夫でいいんじゃないであるか?我輩、医者でも回復術師でもないであるし。」
「ちっ、そうかよ。」
なーんでそんなに睨むであるかなー。あれか、殺したほうがよかったとか思っているタチであるか。残念であったな。
さて、感動の抱擁を終えたのか、シューマとその主は、涙に目を腫らし我輩に向き合ったかと思うと、2人とも同時に土下座の体勢で頭を下げてきた。
「本当にありがとう!お前がいなけりゃシューマは死んでいた!」
「クマッ!」
「礼はいいである。……で、お前何が原因かわかるであるか?」
シューマの主――名前はウガトという――は、依頼報告するまでの経緯をこう語った。
ウガトとシューマは依頼でなんと我輩たちと同じ山岳に赴いていたらしい。そこで魔物を狩っていたのだが、中に嫌に凶暴な魔物、トライホーンディアーがいたとのこと。聞けばウガトはCランクの冒険者で実力もあるそうで、シューマと共にその凶暴な魔物を協力して倒した……まではいいのであるが、返り血を浴びたらしいである。
近くに川があったから速攻洗い流し、帰路に就いたのだが、そこら辺からシューマの息遣いが荒くなっていたのが気になっていた。そしてシャスティに着きギルドに報告しようとしたところで……今に至るとのことである。
「臭うであるなぁ。」
「何!?まだ返り血の臭いするか!?」
「クマッ!?」
「違うである!……そのトライホーンディアーとやらである。」
「トライホーンディアーな……俺も何度も狩ってきたけど、あの魔物は最初、自分から攻撃してくるってことはないんだよな。そう思うとやっぱり以上だよな。目も血走って歯茎が見えるほど歯食いしばってたし。」
それってあの時の九尾みたいであるよな。あいつも血走ってた目をしてたし。
そしてシューマの身にかかっていた状態異常の狂操状態。これをウガトに聞いてみたところ、知らない状態異常だという。我輩も聞いたことないである。
が、字面から察するに、狂わして操られている状態……ということになるであるよな。催眠であろうか?……うーむ、分からんである。
その後、外に用事で出ていたキッカが帰ってきて彼女は荒らされたギルドに茫然としたかと思うと、騒動の重要人物であるウガトとシューマと我輩を強制連行し事情説明させられたのである。そんでもってシューマは狂操状態だったことも加味され処分はなし。しかし、2週間の外出禁止を言い渡されたが、まぁ仕方ないであろう。
ついでにキッカにも狂操状態のことを聞いてみたが、やはり知らないらしい。……いや、本当に何であるかこれ。
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