第112話 噂をしたら事件である?
ギルドへの報告を終えた我輩たちは、備え付けの食事スペースでサラマーナから聞いた事件について菓子をつまみながら話していたである。
といっても、シャスティではすでに噂になっているようで、ギルド内でもちらほらその話をしているものがいるようである。時折、我輩たち目掛け、厳しい目線が飛んできてる気がするであるが気にしない気にしない。
「従魔が主人を襲う……ね。聞いてて気持ちのいい話じゃないわね。」
ロッテは渋面を作ると、カップに注がれたコーヒーを軽く煽る。
やはりポチと言う相棒と呼ぶべき従魔を連れている以上、そういう話はどうしても気になってしまうようであるな。我輩だって気になっているが、まずはあり得るのであろうか。
「ロッテよ、そもそも従魔が主人を襲うなんてするのであるか?」
「そりゃ従魔も生き物よ。扱われ方が嫌だったら反抗もするし、限度が来ると従魔契約切って見限ることもあるわ。」
話の最後に、「でもそれは稀なことよ」と付け加えるロッテ。曰く契約時点で従魔と人の間でそれなりの信頼関係を持っているはずとのことらしいである。
それを言うと、ポチは大丈夫そうであるな。床に寝そべりリラックスしているようでとてもロッテに反抗しようだなんて考えは持っていなさそうであるな。
「ネコ様は大丈夫ですよね?私を見限ったりしませんよね?ね!?」
従魔が離れていくというところから、我輩がいなくなることを想像したのであろう、ロッテが必死の表情で我輩に抱き着いてきた。不安がるのも分からなくもないであるが、我輩そんな気さらさらないであるぞ。
ってかそもそも我輩、従魔じゃないし。我輩が、コーリィを従えているし……
そんなことはさておいて。
「しかし、あらゆる従魔が離れるとはどうも自然的なこととは思えないであるよなぁ。人為的なものを感じるである。」
「そうね、他の従魔には悪いけどポチがその対象になってなくてよかったわ。」
「バウ?」
ロッテは優しげな表情で、傍で寛いでいたポチの頭を撫でる。聞くところによれば、ロッテとポチはそれこそロッテが子供のころに従魔契約をしそれからずっと一緒なのだとか。
……ん?子供のころに従魔契約?さらっと言ってるであるけどそれ凄いことでは……?
何にせよ、魔物である我輩とポチ、2体いるこのパーティにとってはこの従魔事件、関係ない話ではないであるよな。
最悪ポチが事件の従魔同様、我輩たちに襲い掛かることがあるかもしれない。我輩?我輩はほら、"我輩はネコである"があるであるから、我輩を見失うことはないのである。
「ま、とりあえず気を付けていくであるかな。もしかしたら案外その事件が近づいているのかも――」
知れない、そう続けようとしたところで、依頼受け付けの所で大きな破壊音と悲鳴が聞こえた。
その声から察するに、依頼達成報告に来た冒険者の従魔がいきなり周りに襲い掛かったらしい。……フラグ建てちまったであるか?しかし、興味あるであるな。
「ちょっと行ってくるである。」
「ネコ様、私も!」
「分かった分かった。ポチはここにいたほうがよさそうであるよな。ティナ一応残るである。」
「ワウ……」
「うん!ネコ、気を付けてね!」
例の従魔の暴走化は感染するものかもしれないであるからな。最悪の可能性を避けるためにはポチを近づけるわけには行かないである。
我輩は、コーリィと共に騒動の渦中へと飛び込んだ。
・
・
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「バロァ!!!」
「おい、シューマ!俺が分かんねぇのか!?おい!」
我輩たちが駆け付けた時には、すでに従魔は取り押さえられた後のようであるな。
従魔はクマ型の魔物で、四肢をそれぞれ複数人がかりで抑え込まれ、主なのであろう冒険者が必死に呼びかけているが、クマの方は牙を剥きだし主に噛みつかんと吼えている。
いくら呼び掛けてもクマの敵愾心は消えることなく寧ろ更に燃え上がるように激しくなっていき取り押さえている冒険者もその表情が苦悶に染まっていく。
「おい!こいつはもう無理だ!今ここで殺す!」
「待ってくれ!必ずこいつを正気に戻して見せる!」
「ンなこと言って周りに被害出たらどうするんだ!」
……まぁ、殺すという判断は間違いではないであるよな。このままこのクマが誰かを殺してしまえばその罪は主であるあの冒険者の物になる。それに、残念ながらここでは従魔の命は冒険者に比べたら軽い。戻るかもしれない時を待つよりさっさと殺したほうが被害も少なくて済む。
「安心しろ、せめて痛みを感じないように一瞬で殺す。」
「頼む!あとちょっとだけでも!シューマァ!」
一人の冒険者が剣を掲げクマの頭部に向かって振り下ろす。
主の男は、妨害しないように数人の冒険者に取り押さえられ、顔を涙で濡らしながら従魔
だが、まだ殺されてはかなわん。試していないことがある故な。
「ネコ様っ!?」
コーリィの声を振り切り、渦中に躍り出ると我輩は尻尾で振り下ろされた剣を巻き付き止めた。
思いも知らなかったところから剣を受け止められた男は目を丸くした。
「ま、魔物!?まさかこいつも――!」
「一緒にするなである。我輩は我輩、ネコである。」
「しゃ、しゃべっ!?」
「うるさいである。」
我輩は剣を男の手から剣を奪い取るとポイと放り投げ、クマの眼前に進んだ。
クマの目は血走っており視界に現れた我輩を忌々し気に睨み、大きく叫んだ。
「グルァ!!」
「お前もうるさい。」
「がふっ!?」
上顎に軽い猫パンチを叩き込むことで口を無理やり閉じさせ黙らせ我輩は考えていた実験を試みた。それはクマの額に右前脚……肉球を当て癒しの肉球を念じた。
『癒しの肉球、発動します……狂操状態の解除、顔面の傷の治療が完了しました。』
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