第96話 コーリィまさかの……である

 コーリィだけがリンピオの部屋に戻って幾ばくかの時がたち、冒険者ギルドのロビーでくつろぎながら待ってる我輩たちにようやくコーリィがやってきた。

 しかし、そのコーリィの方がどこかおかしい。

 いつもであれば、(我輩以外のことであれば)冷静沈着に等しいコーリィの顔が赤い……であるな。だが病気というわけではないようであるが。


「た、ただいま戻りました……」

「お帰りである。で?リンピオから何か用があったのであろう?何だったのであるか?」


 コーリィは珍しく躊躇したようであったが、意を決したように椅子に座り我輩の目を直視しながら口を開いた。


「告白されました。」

「……え?」

「リンピオさんから、告白されちゃいました。」


 告白……コクハク。あれか。恋愛シミュレーションゲームやたまに野球ゲームで出るようなあれ。コクハク。

 あの、人が人に対して恋愛的な意味で好きという行為……あ、うん。

 我輩が頭の中でこのような考えをぐるぐるとしているのとは対照的に、ロッテとポチは何だかやっぱりかーとでも言いたげな顔でニヤニヤしていた。


「そうよねー、リンピオったらたまにコーリィ見る目が熱っぽかったものね。コーリィ美人だし?確か私と会う前に死に際を助けられたこともあるんだっけ。そりゃ惚れるわねー。」


 言われてみれば……あぁ、確かにそんな挙動あったであるなぁ。

 そうかー、コーリィのことがねぇー……ぶっちゃけ、コーリィの主人である我輩からすると、あまり面白いものではないのであるがな。


「で?コーリィはどうしたの?その話は受けたの?」

「もちろん断ったわよ。」


 あ、キッパリ言うのね。そこは一切躊躇しないのであるな。


「私はネコ様の奴隷だから。ネコ様の御傍を離れるなんてことしたくないのよ。それにリンピオさんのことは嫌いではないし、いい仲間だと思っているけれど、やっぱり好きとは言えないわね。」

「まーそうよねー私もコーリィは断るって思ってたし。リンピオはこれから大丈夫かしらねー。」


 案外奴であれば、すぐに気を持ち直し、数日後には元気になっていることであろう。ただまぁ……奴は仕事を見つけねばな。


 さて、リンピオの一世一代の告白の話は終わりにするであるか。それよりも重要な話を我輩たちはせねばなるまい。


「コーリィよ。お前、バーサクの呪いは消えたのではなかったのか?」

「っ!!」


 我輩の咎めるような声と視線にコーリィは一瞬にして顔を強張らせ、我輩に顔を向け、その様子は隠し事がばれた子供のようにも見える。ただ、我輩に対する申し訳なさが伝わってくる。


「も、申し訳ございません、ネコ様。実は……ネコ様に呪いを解呪していただいた後、私のスキルの中にバーサクが加わっていたのです。」


 何?スキルにバーサクの項目が?

 確かに我輩はあの時癒しの肉球を用い、コーリィの中に巣くっていたバーサクの呪いを解呪した。それはアナウンスとして我輩の脳に流れたはずであるが……まさかスキルに転じたいたとは。


「ロッテよ。呪いがスキルになるなんて話、聞いたことあるであるか?」

「私はないわ。でも、バーサクでしょ?アンタよくそんな重大な呪い解呪出来たわよね。一番簡単な解呪方法は殺すことだって言われてるのに。」


 そこはほら、癒しの肉球万歳ということにしていただこう。

 重要なのは、コーリィがなぜそのことを我輩に黙っていたのかである。

 我輩がそのことを伝えると、コーリィは首を垂れ、ぽつぽつと告げた


「まだ……私の中にあの忌まわしきバーサクが中にあると、ネコ様に嫌われるのではないかと、捨てられてしまうのだと思ってしまうと……言い出せなくて……!本当に申し訳ございませんネコ様!いかなる処罰も受けます!」

「いや、しないし。」

「はぇ?」


 我輩の一言にコーリィは間の抜けた声で聴き返し、ロッテはブフッと堪えきれないとばかりに噴出した。

 そんなに面白かったのか……


「コーリィよ、それは思い過ごしであるぞ。ぶっちゃけそんな事我輩にとってはどうでもいいのである。仮にまた暴走すれば諫めればいい話であるからな。」


 少なくとも今の我輩は暴走コーリィと相対した時よりは強くなっているであるから、抑え込むことは容易であろう。


「だが、それでも報告は必要である。我輩が知っていれば、闇ギルドの者どもと戦うときにさっさとバーサクを使わせておけば状況は変わっていたやも知れぬ。現にあの時のコーリィはライザたちに攻撃しながらもロッテ達には攻撃しなかったであろう?」

「え、えぇはい。あの時のバーサクは……何と言いますか、私の意思と関係なく動いてはいましたが、私のしたくないことは絶対しませんでした。」


 つまりはバーサクも呪いからスキルに転じたことで変化があったのであろう。

 その力を十分に使いこなせることが出来ればコーリィはまた一歩成長することが出来るのだ。


「コーリィよ、我輩はお前を捨てることはしないであるぞ。自分が買ったペットのようなものなのである。最後まで責任はとる。」

「ネ、ネコ様……!」


 コーリィは感極まったように目に涙を浮かべ、大きく頭を下げた。

 ロッテからはペットってそれでいいの?ってボソッと聞こえたがいいのだ、


「んじゃ問題も解決したことであるし、明日からまた冒険者稼業するであるかな。」

「あら、明日からなのね。」

「今日は色々あって依頼を受ける気がないであるからな!食べ歩きである!」

「お供させていただきますネコ様!」

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