第97話 あのスキル使って見たら…

 リンピオのパーティの脱退から数日後、我輩たちは今ギルドの依頼で土竜魚という魔物を狩りに例のダンジョンのあった森に出向いていた。

 その魔物自身は発見したのであるが、これがなかなか厄介。姿は魚……それもピラニアに似ているが、何とまぁ……前足があるのである。それももぐらみたいな。奴らはその前足で地中に掘り進んでしまったのだ。


「これを20体……であったよな。」

「そーよー……だから私はやめようって言ったのに。」


 ロッテの言った通り、我輩はこの依頼を受けようと思ったが、止められた。絶対に面倒なことになるからこの魔物はやめようとな。

 しかし我輩にも引けぬ理由というものがあってだな……

 土竜魚美味いらしい。であれば我輩は引くわけにはいくまいよ。っと言うわけでコーリィは我輩に賛同。ポチもそれに応じて賛成の鳴き声を上げたので3:1で依頼を受けることになったのである。


「ネコ様、どうしましょうか?この穴に火魔法放ってみましょうか?」


 コーリィがそう言うので許可を出して魔法を放ってもらったが、穴の中からは悲鳴すら聞こえない。それどころか――


「ギシシャシャシャ!!」


 火を放たれたはずの穴の中から火傷1つ負ってない土竜魚が飛び出て穴の近くにいたコーリィに牙を剥けてきた。

 しかしコーリィの反応も負けておらず、紙一重でかわしその横腹に拳を叩き込んだ。


「つっ!」

「ギャギャッ!」


 どうやら、傷を負ったのはコーリィだけのようだ。殴った拳からは血が噴き出し、その顔は苦痛に歪んでいる。

 話に聞いていた通り、竜に近い鱗を持っているようであるな。とはいえ、我輩直接竜と対峙していないのであるがな!

 我輩が猫パンチで地面を殴って掘り起こしてやろうか。……いや、何十匹も飛び出した挙句全部が散り散りにコーリィ達を狙ったとなると対処しにくいであるな。

 ふむ。であればあのスキルたちを試してみようではないか。


「コーリィよ。憑依を試させてもらうであるぞ。」

「畏まりました。この体、お使いください!」


 コーリィは一切嫌な顔を浮かべず我輩の前に首を垂れたので我輩はコーリィの頭に前脚を乗せ憑依と念じた。

 するとどうしたことか、我輩の前足がコーリィの頭にずぶずぶと沈んでいるではないか!何これ怖いである!!


「ネコ!?あんた何してんの!?」

「ウォウ!?」


 そうよな!そりゃこんな光景見たらそんな声出るであるよな!コーリィはコーリィで無反応であるし、これ意識もうないのであるか!?

 くそう、解除解除である!

 しかし我輩の前足は我輩の意と反してどんどん頭へと沈んでもう片方の前足も次いでは我輩全体をも――!


「っあー!酷い目にあったである!」


 我輩の頭がコーリィの体に埋まりこみ、我輩は大きく声を上げ……ん?待て待て?我輩ってこんなに声高かったであるか?しかも聞いたことのあるような声……

 あれ?体に違和感も……あれ、これ手?我輩の手?でもこれ人間の……ぐっぱーしてみるとそれに合わせて我輩の目に映った人間の手は握ったり開いたりした。

 顔を上げてみるとそこには信じられないようなもので見るロッテがそこにいた。


「ちょ、ちょっとコーリィ……あなた、何ネコみたいな口調で話してるの?」


 ……うわ、この反応間違いないであるな。こりゃ我輩、本当にコーリィに憑依してしまったようであるなこれ!


『そのようですね。私の手が私の思ったようには動きませんね。』

『うぉ!?コーリィ意識あるのであるか!?』


 意識がなくなったものと思っていたが、コーリィから奴隷テレパシーが飛んできた。1つの体に2つの意思が入っている状態なのであるか。


『えぇ、バーサク状態の時のようです。ですが、バーサクよりも気は楽ですね。』


 立ち上がった我輩は依然変な目を向けてくるロッテに今のコーリィの体は我輩が動かしていることを説明すると、そんな話し方するのはネコぐらいだから納得したわと変な納得のされ方された。……解せぬ

 まぁいい。では早速コーリィのステータスを見てみるであるかな。もしかして我輩のスキルが使えるやも。そう思い、我輩はステータスを展開させる



《名前》コーリィ・ディアント(憑依:ネコ)


《年齢》15歳


《性別》女


《種族》人間


《スキル》

奴隷テレパシー 炎魔法 短剣術 杖術 剣術(封印)魔力増強


《ユニークスキル》

バーサク バステト


 やだ……コーリィのスキル我輩の者と比べて少なすぎない?

 いや、我輩が普通より多い可能性だってあるであるな。ってバーサクはユニークスキルなのであるな。いや、それよりもである。我輩のスキル、無いのであるな。もう綺麗さっぱり全部と言うわけではないが、バステト以外スキルが使えないのであるな。

 コーリィが猫パンチ使えてもおかしな話ではあるがな。

 だが、こんなものでは地中の土竜魚を叩き起こせぬな。なれば開けてみるか。謎のバステトというパンドラボックスを――


『コーリィ、覚悟は良いであるか?』

『覚悟など、とうに出来てます!』


 よし。


「ロッテ、ポチよ。少し下がっているである。危ない可能性もあるであるからな。」

「うわー……コーリィが古臭い言葉使ってるぅー……」

「お前、我輩の口調そんな風に思っていたのであるな!」


 知りたくなかった衝撃の真実……だからと言って変える気はないのであるが。

 よし、ロッテもポチも十二分に離れて木から覗いているであるな。


「では"バステト"発動である!」


 我輩がそう口にした途端、目の前が真っ暗になった。

 比喩ではないである。まるで頭上から黒い布が覆いかぶさったように何かが私を包んだ。

 そして視界が閉ざされると同時に我輩の、私の意識も闇に溶けていく。

 待つである。待ってください。我輩が、あれ?私は?一体……?

 何が起こっているんじゃ?



 おえっ、何じゃこの感覚気持ち悪いのぅ……バステトめ、まさかこんなに気持ち悪いスキルとは思わんかったのじゃ。

 ん?あれ、妾こんな口調じゃったかのう?

 お、おかしいのじゃ。なんじゃこの状況!そうじゃ、ロッテ!ポチ!

 未だ1人と1匹は木からこちらを覗いておるから聞けばいいのぅ!

 なんじゃ?あ奴ら口をあんぐり開けおって?

 仕方ないのぅ、こっちから声をかけてやるしかないかの。


「おぅい、ロッテにポチ!妾じゃ、妾!」


 妾は大きく手を振りながらロッテ達に近づく。

 すると、ロッテはあり得ないものを見るかのような目で妾を見やる。

 

「ちょ、ちょ待って!誰!ネコなの!?コーリィなの!?」

「え、妾は妾じゃよ?」

「いや知らないわよ!?褐色で黒髪でネコの耳を頭に生やして、しかも一人称妾なんて、そんな女の人私知らないわよ!?」


 え?

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