第98話 妾の活躍ぶりじゃ!

「わ、妾がじゃと!?妾いつからそんな属性もりもりの人間になったん……」


 妾が困惑していると、動揺を感じたのかロッテは慌ててウェストバッグから手鏡を取り出し、鏡部分を妾に差し出してきた。


「なっとるのう……」


 黒髪猫耳褐色になっとったわ……あーこの世界で猫耳はカルラを思い出すのじゃ。……じゃなくて!鏡の中の妾はよくよく見ると私――コーリィの面影があるのう。それにこの耳、間違いなく我輩のものじゃ。

 ははーん?分かったのじゃ。このバステトというスキルめ、我輩と私の意識を混ぜ合わせ妾を生み出したのじゃな?

 道理で我輩とも認識できるし私とも認識できるわけじゃ。じゃが、私の時より背が少し高くなっておらんか?


「あのー……ネコ?またはコーリィ?なの、よね?口調は違うけどノリはネコのそれだし。」

「ノリってなんじゃい。しかしてその通りじゃ。妾はネコでありコーリィ。我輩であり私であり――妾なのじゃ。そうじゃのう……便宜上妾のことをバステトと呼ぶのじゃ!」

「は、はぁ……」


 何だか微妙に納得していないようじゃが、呑み込んでもらうしかないのう。

 ポチ?あんまり匂い嗅がないでもらえるかのう?我輩だけならまだしも私も混じっておるから恥ずかしいのじゃ。


「え、えぇっと?バステト……さん?」

「呼び捨てで構わん。ロッテに敬語使われるとムズ痒いのじゃ。」

「分かったわよ。で、さっさと土竜魚獲りましょうよ?……でもイケるの?」

「おお、そうじゃったのう。まぁ見ておくのじゃ。面白そうなスキルがあったからのう。」


 ロッテとポチに手出し無用と伝え、妾は土竜魚が群れを成して潜っているちょうど真上の地面に立つ。

 何故分かるのかと言われれば、単純に耳をすませば奴らが地面を掘り進んでいる音がよく聞こえるのじゃ。我輩の時では聞こえなかったのからそこらへんも強化されているみたいじゃの。


「さてと。我が声にこたえてくれるかのっと。」


 妾は屈むと、地面に対して軽く2回ほどノックするとすぐにその反応が返ってくる。具体的には妾を中心に地面が揺れ始めたのじゃ。もちろんこれは自然現象ではなく、我輩が起こしたものなのじゃ。いや、妾は地震を起こしたものを起こしたのじゃ。


「ちょっとバステトぉ!これ大丈夫なの!?」

「妾がやったことじゃから大丈夫じゃー」


 木にしがみ付くことで揺れによる転倒を回避しようと踏ん張ってるロッテに妾は手をひらひらと振ることで返答する。……面白いのぅ、ロッテもうちょっとからかってみたいのう……

 む、そんなことを考えてると地面が盛り上がってきたのじゃ。うむうむ、応えてくれたようじゃの。地面から……うむ、頼んでおいた通り土竜魚が大量に出てきたわい。各自、土の手に掴まれて。


「ギシッギシギシッ!?」


 土竜魚は何が起こったのか。分からないようじゃが、それでも自分がピンチだということは分かるのじゃろう。土の腕の中で体をくねらせたりと必死でもがいているのじゃ。

 じゃがまぁ、このままじゃ運べんからのう。死んでおとなしくなってもらうかの。


「"吸魂"。」


 妾が大きく息を吸うと一斉に土の手に掴まれた土竜魚が糸が切れた人形のようにガクッと力を失った。その目にはもはや光はない。

 ロッテには分らぬであろうが、妾には見える。土竜魚共の体から光る炎のようなものが浮かび上がったのをな。それらは妾の吸いに抗えずひゅぽひゅぽと妾の口の中に入ってくる。

 ま、要するに魂を吸ったのじゃ。初めて喰うが中々に美味いのう。……じゃがこれ、モデルが豊穣、性愛の女神であるバステト神じゃと思うとこのスキル、ミスマッチじゃないかの?いや、妾がバステト神本人ならぬ本神じゃないからいいかもしれんがのう。


「よしよし、皆の衆、ご苦労じゃったの!最後に土竜魚を一か所に集めてくれんかのー?」


 妾の声に反応し、土の手たちは持っていた土竜魚の死体をどんどんと山積みにしていくのじゃ。……おおう?思った以上に大量じゃのう。確か20体必要のはずじゃったが、50は優に超えておるの。

 積み上げ終わると、土の手たちはそれぞれ親指を立てたり手を振ったりしてそれぞれ土の中に戻っていったのじゃ。達者でのー。


「終わったのじゃ!」

「何したのよあんたぁ!?」


 ……まぁそうじゃの。ロッテ目線からしたら何が起こったかチンプンカンプンじゃろうて。


「あの土の手はの、ここらで死んだ者たちの霊なのじゃ。人間も魔物も含めての。」

「いや、なんでそんなものが出てくるのよ。」

「妾が頼んだからの。土竜魚捕まえたいから持ってきてくれんかのって。そしたら地面に受肉しての?それぞれ持ってきたってわけじゃ。どういうわけか皆張り切って予想以上に持ってきてくれたがの。」

「あんた……相当ヤバい存在になってない?」


 自覚はあるのじゃ。当たり前のように使っておるが、明らかに普通ではないからのう。我輩と私を足してバステトを起動させただけでここまで強くなるとか我ながら頭おかしいんじゃないかの。

 ……じゃが、あと少しじゃのう。その前に!


「"フレイム"っとー。」

「あぁっ!?あんた何してんのよ!」

「何って1匹焼いただけじゃろう?ほーれ、いい焼き色加減じゃ。」


 んー香ばしい匂いじゃ。我輩もいい依頼を受けたものじゃ。これは依頼分以外は大事に取っておかねばの。

 妾は景気よく、土竜魚の背中あたりにかぶり付き、味を堪能する。

 ほう!モグラとは見た目だけか!味は魚のそれに近いのう。おおっと!駄目じゃぞーポチ。これは妾のじゃ。

 ガツガツと土竜魚を平らげ、爪の先、骨の髄まで味わったところで――妾の体が発行し始めた。


「え、バステト!?」

「おお、心配はいらぬ。この姿が維持できぬようになっただけじゃ。次第に元の我輩と私に戻るだろうよ。」


 いやー、戻る前に妾のままの妾の口で土竜魚を味わえてよかったのじゃ。

 味の記憶だけあって味そのものを知らんと辛いからのう。我輩と私が羨ましいのじゃ。……まぁそう頻繁に妾になれるとも思えぬがな。



 意識が覚醒すると、我輩はコーリィの頭の上にいたである。お、ロッテにポチもいるであるな。変な顔しているであるがな。


「ネコ……よね?」

「何であるか。我輩に何か不満でもあるであるか?」

「そんな!ネコ様に不満なんてあるわけありません!ね、ロッテ?」


 そんな我輩とコーリィの声に、ロッテ達は脱力し切った顔でその場にへたり込んだ。妾の時の記憶があるから、ロッテ達が何故こんなに脱力してるか分かるであるが、何というか……申し訳ないであるな。

 コーリィも苦笑いを浮かべて頬を掻いている。

 だが、ロッテ達にはまだやってもらわねばならぬことがあるのである。


「ロッテ、ポチ!」

「な、なによぉ!?」

「すまんであるが!」「私たちの体!」

「「よろしくお願いするである(します)!」」


 我輩たちはふらりと力が抜け、重力に逆らうことができず地面にあおむけに倒れることとなった。というか我輩コーリィの頭の上にいたからその分叩きつけられていてぇである!!

 こうなった原因は言わずもがな、バステトである。やはり強大な力の代償か、コーリィは全身筋肉痛、そして我輩は魔力欠乏症を起こしているのである。故にこれ!動けぬ!

 救いがあるとすれば、この状態でもマジックボックスは使えるので、ポチに運んでもらい、積み上げられた土竜魚の山を回収。我輩はポチに、コーリィはロッテの肩を借りることで何とかシャスティに戻ることができたのである。

 これはバステト、本当に有事の時にしか使わぬようにせねばな……


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新連載、『異世界の神社には天女様』を投稿し始めました!


あらすじ


「ちょっと異世界行ってきてね。」そんな神様の一言から始まった天女の天樹姫さんの異世界転移。

魔王討伐?建国?そんな仕事はありません。ただただ暮らしているだけでいいらしい。

神様に自分を祭ってねーとか何とか言われたので森のど真ん中に神社を立ててみた天樹姫さん。

参拝客来るのだろうか……?


https://kakuyomu.jp/my/works/1177354054881651781/episodes/new

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