第99話 新たな風である?

「あ゛ー辛いである。」

「ネコ様ぁ……体が動きません……」


 ロッテとポチの力を借りようやくシャスティに帰還。依頼の達成報告をロッテ達に任せ、我輩とコーリィは借りておいた宿の自室でベッドに身を任せているのである。

 我輩は魔力欠乏症、コーリィは筋肉痛で絶賛大悶え中である。辛い。

 しかし、我輩とコーリィを混ぜ合わせ、新たな人格を作り出すスキルとは、異質なスキルであるよなぁ、バステトは。


「ネコ様……バステトってスキルは使うたびにこうなるんですかね……」

「であろうなぁ。我輩もこうもポンポン欠乏症になりたくないであるから、力をつけながらもバステトは超有事にしか使わないようにするである。」

「そうしましょうそうしましょう。」


 コーリィも辛かろうて。我輩は体のだるさと魔法が使えないだけであるからまだいいかもしれぬが、コーリィは一挙一動するたびに筋肉が悲鳴を上げコーリィの口からも悲鳴が漏れる。中には卑猥げなものもあれば、女の子が出していい声じゃない時もある。

 ……というか、力をつけただけでバステトの反動はなくなるのであろうか。我ながら疑問である。


 コンコン

 ん?ノックの音……であるが、ロッテ達が戻ってくるには早いであるし……?ルームサービスとか?

 まぁ返事を返さねば分かるであるかな。


「誰であるか?」

「私です私。」

「……名前を言うである名前を。」


 どこの詐欺であるかその言い方。


「私ですよ、レイネです。ネコ殿とコーリィさんにお伝えしたいことがあって参上しました。」

「開いてるから入ってきてもいいであるぞ。」

「それでは失礼します……ってどうしたんですかお2人とも。」

「気にするなである。」


 扉から入ってきたレイネの姿は城で見たものでも、先日会った子供の姿ではなく、いかにもそこら辺にいそうな町娘な姿をしていた。自分からレイネと言わねば分らぬであろうな。

 

「お゛っ、お久しぶりです。レイネさん……」


 レイネは備え付けの椅子に座るとすぐ近くのベッドで寝ているコーリィの腕をちょんっと触り、コーリィは痛みで悲鳴を上げた。Sであるか。


「あらあら、その様子、筋肉痛ですか?お大事に。ネコ殿は魔力欠乏症のようですね?」

「まぁ色々とあってであるな……ところでレイネ、何用であるか?」

「闇ギルドについてです。」


 その言葉に我輩は眼を鋭くした。格好だけ見ればだらけている様に見えるが、そこは許してほしいである。

 さて、レイネ曰く、ギルド長から闇ギルドがダンジョンに現れたという報告があったらしい。そういえばニーフィが伝言を託されていたであるな。


「その闇ギルドというのはやはりコーリィさんを?」

「うむ、狙っていたであるな。」


 我輩はダンジョンであったことを、奴らを食べたことを除いて全て話した。死体は焼却処分したと伝えておいたである。

 コーリィが狙われたことに、やっぱりそうですかと、レイネはため息をつき、コーリィに視線を移した。そのコーリィは悶え中で話は聞こえていないようであるな。


「しかし、思ったよりも早いですね。」

「うむ、そこなのである。」


 そう、闇ギルドに見つかるのがあまりにも早いのである。

 コーリィがハイドマフラーを外して、何日も経っていないのである。連中が仕掛けてくるのは織り込み済みだとしても行動が早いであるよな。ギルドの中にいたのであろうか……?


「とにかく、闇ギルドに関してはこちらも調査してみます。」

「頼むである。」


 一番いいのは奴らが諦めて消えてくれることなのであるがなー。それか、一気に全員襲い掛かってきてバステトで一掃できれば……そりゃ楽であるよな。

 そう考えると面倒くさいであるよなー狙われているのを分かっておいて何もできないというのも。

 ま、奴らが手を出すのを待つしかないであるか。それまで精々冒険を楽しもうではないか。


「おや。」


 暫く世間話をしていると、レイネが何かに反応した。我輩もつられて耳を澄ましてみると、足音が聞こえるであるな。それもこれはロッテとポチの足音であるな。覚えたであるぞ。


「さて、私はここいらで失礼させていただきますね。コーリィさん、お大事に。」

「は~い……」

「ネコ様も。」

「うむ、何かわかったら教えてほしいである。」


 レイネはかしこまりましたと告げると、煙のように消えてしまった。

 ……本当に忍者みたいな動きするであるなこいつ。

 レイネが消えて数秒後、ほくほく顔でロッテが戻ってきた。ポチはその口に肉をほおばっているであるな。



「たっだいまー!ねぇ見て見て!土竜魚の質がいいって追加報酬もらっちゃったのよ!」

「ワン!」

「おーおーそりゃよかったであるな。偏に吾輩のおかげであるな!」

「何よ、コーリィもでしょうが!それにあなた達をここまで運んだのは私たちですぅー!」


 そんな調子で部屋の中は大いに盛り上がった。コーリィだけが辛そうであるが……頑張るである。我輩もだいぶ慣れてきたとはいえ辛いであるし。

 我輩は2日、コーリィは3日で漸く回復することができたのである。



 そこから1年の時が流れた。

 ネコたちは変わらず気ままに依頼をこなしては日々を生きていた。時に採取に出かけ時に討伐に、時にはダンジョンに潜りにも行った。

 不気味なことと言えば闇ギルドからの接触が一切なかったということだ。1回の襲撃で諦めたのかそれとも――?


 1年という時はあらゆるものを成長させ、そして新たな風を吹き起こした。

 その風はシャスティにも訪れた。

 王都に入るための門では1人の女性が門番と会話していた。


「ほい、犯罪経歴も無しっと。よーし入門してもいいぞ。」

「ありがとね、お兄さん。」

「よせやい、おじさんだ。ところでお嬢さんよ、シャスティには何しに来たんだ観光か?」

「んーん?探し物だよ?」

「ほーそりゃ見つかるといいな。ま、ゆっくりとしていってくれや、ワーウルフのお嬢さん。」


 ワーウルフの女性は少し幼さの残る顔で笑いかけると小さく手を振り門番に別れを告げる。

 銀色の短髪をたなびかせ、女性は去っていくのを門番は頬を染め女性が見えなくなるまでその方角を見つめて、同僚に変な目で見られた。

 ……この女性はどんな風を起こすのか。それはこれから明らかになっていくだろう。


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次回から時間が1年ほど飛びますが、これからもネコ闊歩をよろしくお願いします!

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