第2話 吾輩のスキルである。

「で、ネコくん。私に任せるのはいいんだけれどさ。少しでもいいから君の望みを言ってほしいんだよ。見た目だけでもね?」


 望みであるか。そうであるなぁ……

 身体能力はもちろんであるが、尻尾は二股で、頼むである。後は、喋れるようにしてほしいである。


「え?そんなのでいいの?人間にもなれるんだよ?」


 興味ないのである。吾輩、猫として生まれたであるから異世界も猫で生きていたいのである。


「でも、それだと魔物として扱われることになるんだけど――」


 構わないのである。寧ろそっちの方が楽しそうであるな。

 ほれ、肉球触ってもいいからさっさとするである。というか吾輩、眠いから寝てるであるぞ。

 終わったら起こすのである。


「えぇっ!?ネコくん自由すぎないかな!?あっ猫だもんね!そうだよね!」


 うるさい神であるな。

 しかしとして、こやつの膝上は中々に心地よい。友の膝を思い出すようだ……

 段々と吾輩の眠気も強くなっていくのである……zzzzz



「――こくん?ね――ん?」


 zzzzzzzzzz……んん、まだ食べられるのである。


「まだ食べれるの!?ほら、起きて!」


 ふぁあぁ……終わったであるか。

 良く寝たのである。


「いやぁ……今まで色んな人間を転生させてメイキングをずっと見ていて楽しそうだなーって思ってたんだけどやっぱり楽しいね、これ。」


 吾輩、大分寝ていた気がするのであるが……神め、ずっとメイキングしていたのであるか?

 まぁ、吾輩に代わってスキル等を決めてくれたのには本当に感謝するのである。吾輩だと目移りして変な物決めかねぬであるからな。


「よし、それじゃあさっそくお披露目というこうか!これが君のステータスだ!」


 神が吾輩を抱いたまま立ち上がり片手を大きく広げると吾輩の目の前に再び吾輩が映ったウィンドウが表示される。

 ……む?いや、これは微妙に吾輩ではないな。なるほど、これがその異世界で転生する吾輩の姿という訳か。すらっとしていて、引き締まった肉体をしているである。

 オーダー通り尻尾もちゃんと二股であるな。

 顔も凛々しいし……おや、金と蒼のオッドアイであるな。中々格好良いであるな。

 ふむふむ、ステータスはっと……?



《名前》ネコ

《年齢》15歳

《性別》雄

《種族》黒魔猫

《スキル》

言語理解・発声 気配遮断 忍び足 風魔法 闇魔法 イーター 猫パンチ 分身

《ユニークスキル》

癒しの肉球 吾輩は猫である


 何であるかこれ。


「んっふっふー!どう?どう?いいでしょ?面白いでしょ?あ、この黒魔猫って種族ね!今作ったんだー!所謂君だけしかいないんだよ!」


 うん。それは構わないである。ただ一匹だけの種族。中々に浪漫に満ち溢れていると吾輩思うぞ?

 ただな?何であるかこのスキルは!


「珍妙過ぎるであるぞ!!!」


 ……む?今の声……吾輩の喉から、口から出てなかったか?

 もしかしなくても吾輩今、喋ったであるか?

 

「おぉ、喋ったね。スキル、言語理解・発声が適応されたんだね。という事は……?」


 何気なく言うであるな、この神。……む?何か体がむず痒いである。

 って段々痒くじゃなくて……


「痛いっ!痛いであるぞ!!何がっ!どうなっているである!!」

「姿が画面と同じ姿に変化しているんだよ。まぁ体を強制的に変化させているんだから痛みはご愛嬌という事でね?」


 ンなこと言ってる場合であるか!!あででででで!!

 ……ん?急に痛みが治まったであるぞ。

 むむむ?……おぉ!尻尾が、吾輩の尻尾が二股になっているである!!

 ハハハ、別々に動かせて面白いである!しかも伸びる!人間が拍手するように尻尾と尻尾を叩きあうと音も出るである!筋肉しっかりついているであるな。


「満足かい?」

「うむ、満足である!流石は神であるな!」


 体が軽いであるな。今までの身体が重かったわけではないであるが、それでも今の身体は格段に軽いであるな。


「うんうん、私の腕の中で喜ぶネコくんも可愛いねぇ。じゃあそろそろスキルの説明をしてもいいかな?」


 うむ、頼むである。

 と言っても何となくは分かるである。吾輩が気になる物だけ答えてほしいである。

 そのまんまな名前が多いであるからな……。その中でも異彩を放つスキルがいくらかあるであるが……


「あぁ、イーターと猫パンチ以外の変な名前のスキルは君のために私が作ったスキルなんだよ!神様権限でね!」


 無駄な神様権限であるが……そのイーターとやらは何であるか?


「まぁ簡単に言うと、基本的に人の食べれるものなら何でも食べられるスキルだよ。猫のままだと厳しい食べ物いっぱいあったでしょう?」

「ほう。つまりは吾輩も人の食べ物も平気な顔して食べて体調には何の問題もないのであるか?」

「そゆこと。」


 地味にうれしいであるな。友が美味しそうに食べているものは、吾輩食べちゃいけないみたいでお預け喰らっていたであるからな。

 そんな心配もしなくていいとは……イーターとはすばらしいスキルであるな。


「次に猫パンチだけど……まぁ猫専用の格闘術だと思って?パンチするだけだけど今の君なら大分強いスキルなんだよね、これが。」


 お、おう……吾輩、生前も猫パンチはいくらかやったことはあるであるが、どうも可愛がられてお終いであるから、微妙な気持ちであるぞ……


「次ー。ユニークスキルっていうレアなスキルで、癒しの肉球ね!これねー、君の肉球ぷにぷにしてたら思いついたんだよー。」


 神は肉球がお気に入りであるな。友以外の人間も吾輩に会うたび肉球を触るものがいたが、そんなに良いものであるか?自分の手故、よく分からんである。


「その効果とは!君の肉球をぷにぷにした者の精神的状態異常を回復するというものなんだよ!あと普通にリラックスできて、体力もちょっと回復します。」


 ……ふむ。割と大人しめであるが、便利なスキルであるな。

 で?このまさに吾輩っ!と言いたげなこのスキル名のこれはなんだ?


「ふふふ、これは悩んだよー?スキル名をね!さぁ説明しよう!スキル、吾輩は猫であるとは!精神的状態異常をすべて無効化し!何者にも服従されず!物理的にも精神的にも縛られない!ネコくんという存在を保つためのスキルだ!」


「……う、うん。すごいであるな」

「あっれ!?反応薄くない!?凄いスキルだよこれ!」


 いやぁ、確かに凄い便利なスキルと思うである。

 だが、神のテンションが異常に高くて吾輩ついていけなかったのである。すまん。


「うぅ……負けた気分だよ。まぁいいさ。そろそろ異世界に送るけど私は君を見ているからね!面白そうだから!」

「えぇー吾輩は神の暇つぶしであるか?」


 吾輩の苦言に神も苦笑い。あながち間違っていないのであるな。

 まぁいいである。見られるのには慣れているのである。存分に楽しむがいいである。


「ふふっ、ありがとうね。私もここにいると結構暇なんだよねーだからそう言ってくれると嬉しいんだ。嬉しいからこれあげる。」


 神が人差し指を立てると吾輩の首元に赤い首輪と金色に輝く鈴が装着された。

 む?何であるかこれ。


「その鈴はマジックボックスになっていてね。収納スキルが内蔵されていてるんだ。君が中に入れたい物の近くに立って、頭の中で収納って呟いたら中に入れることが出来るんだ。ただし、生きているものは入れられないから注意ね?」

「了解である。」


 マジックボックスの説明を終えると神は吾輩を降ろし、長い髪の下から名残惜しそうに見つめる。

 全く、この神は……変に人間臭いであるな。そこはもうちょっと飄々としているものであるぞ。


「人間臭いなんて……君に言われたくないよ?」

「ハッ!それもそうであるな。」

「――じゃあ送るね。」


 神が軽く手を合わせると吾輩の足元が光りはじめる。

 なるほど、これで吾輩は異世界に転生されるという事であるか。

 むぅ……だからそんな顔で見つめるでないぞ!仕方ない。


「神!お前、名前は何だ!あるのであろう!?」

「うぇ!?え、えぇっと、クシャルダ……」


 何故自分の名前でえぇっとってなるのであるか。もしかして忘れかけたのであるか?


「クシャルダ!吾輩とお前は友である。だから吾輩が死んだらお前の所に逝く。だから待っているのである。……まぁそう簡単に吾輩は死なぬがな!」


 クシャルダは驚いたためか、目をかっ開き、ぷすっと口から笑いが漏れた。


「ハハッ!そうかい!それは楽しみだ!!……それじゃネコくん。またね。」

「うむ。また、である。」


 そうして吾輩は、クシャルダに別れを告げ、異世界へと旅立ったのである。

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