第3話 第一異世界人?遭遇である

 ガタンガタンと吾輩の耳に喧しい音が流れ込んでくる。

 転生が完了したであるか?それにしては薄暗くて若干埃臭いであるぞ。

 転生と言えば、森の中だったり洞窟の中に放り込まれるものであろう。だが、今いる場所はとても森や洞窟とは思えないのである。

 足元が木の板の床であるし……このガタゴトという音は……タイヤの音であるか?

 吾輩が腰を落ち着けて辺りを見回してみると、小さな窓が確認できたのである。が、小さすぎるであるな。吾輩でも通れないである。


 む?外から声が聞こえるであるな。


「ん?今荷車が揺れなかったかぁ?」

「あぁん?気のせいじゃねぇのか?仮に奴の目が覚めたとしてもあの鎖はぜってぇ破れねぇから心配いらねぇぞ?」

「あーそれもそうか。」

「そうそう!」

「「ダァーッハッハッハッハ!!」」


 笑い声が喧しいであるな。

 声を聴く限り2人。そして吾輩の乗っているこれは、何か、生き物を運んでいる乗り物。恐らくは馬車に近いものであるな。

 さて、まぁ吾輩が捕まっているわけではないであるからして……さっさと抜け出るであるかな。埃っぽくて仕方ないのである。


「おい。」


 ん?今何か声が聞こえた気がするであるが……気のせいであるな!さぁ抜け出すと


「聞こえてンだろ、チビ」

「だぁれがチビであるか!!!」


 あ、しまった。大声出してしまったである。

 慌てて声を潜め、耳を立てたであるが、杞憂だったようである。男たちは未だにガハハと笑っているである。

 ってか、吾輩をチビ呼ばわりした奴はどこであるか!


「おう、こっちだチビ。」


 渋々、声のした方向に目を凝らしてみると……ん?人の体のようだが、白く長い毛で覆われているであるな。

 間違いなく人外と呼ばれる存在だな、こやつ。体も異常だが、顔が一番人間っぽくないであるな。だってその顔は明らかに狼のそれであるからな。


「何であるか、お前。」

「おう。俺様は気高きワーウルフの長、ギィガってもんだ。」


 ワーウルフ……狼男であるか。長という割にはみすぼらしい格好をしているであるな、コイツ。

 手足が手錠と鎖で繋がれ木の壁に貼り付けられているであるな。


「っと!何だって言うならこっちの台詞でもあるんだぜ?お前、いきなり虚空から現れやがったんだぞ?何者だ?」

「吾輩はネコである。種族は黒魔猫らしいである。」

「黒魔猫だぁ?聞いたことのねぇ種族だな……突然変異種か?」

「知らんである。吾輩はネコ。それだけで十分である。」


 吾輩の一言にギィガはニィと口角を上げる。


「ハッハ!いいねぇ、お前面白れぇわ。」

「そりゃどうもである。――で?ギィガのそれはどういう状況であるか?」

「おっ!聞いてくれるのか。いやぁ、話し相手がいなくて寂しかったんだ。」


 気高きワーウルフが寂しかったって何であるかそれ。


 さて、このギィガの今の状況は

 集落近くの森へ狩りに出ていたら見たこともないの魔物を発見し、狩ろうとしたが、思った以上に素早く逃げるため追いかけているうちに、集落から遠く離れてしまった。

 しかも魔物の姿も見えなくなってしまい、自身も疲労困憊の状態だったため、諦めて帰ろうとしたその時。

 死角から何かされたようで眠気に襲われ、目を覚ましたら……奴隷商に捕まって今は搬送中らしい。


「こういう状況だったってわけよ!俺の不運さに泣けるだろ?」

「不運じゃなくてお前奴隷商とやらの罠に嵌ったであるな。」

「はぁ?何でだよ。」

「狩り慣れているであろう森に見たこともない魔物というのがまずおかしいである。そんなことあったであるか?」


 吾輩の質問にギィガはハッとしたような顔になるが……本当に気にも留めなかったであるか。


「い、いや。そう言えばあの魔物本当に見たことのない姿をしていたな。まさかあの魔物は使役されている魔物か!?それに俺はまんまと誘い出されていたのか?」


 使役されている魔物であるかー……やっぱりそういう魔物もいるであるか。


「あーくそっ!集落には妻や娘が待ってるっていうのに捕まっちまうなんて情けねぇ!」

「本当であるな。」

「うぉい!他人事かよ!」


 本当に他人事であるし、ぶっちゃけ吾輩このままどこかに行ってもいいのであるが?

 しかしこいつ、妻子持ちであるか?吾輩にはそのような相手いなかったであるから少々羨ましいであるな。


「なぁオイネコ~」

「何であるか。」


 情けない声出すなである、気色悪い。


「この鎖外してくれ。」

「そう言うとは思ったであるが、自分で千切れないのであるか?お前、相当に力あるように見えるであるが。」

「ただの鎖だったならな?だがこいつは繋いだ者の力を封じる特性を持っていやがる。相当金をつぎ込んで作ったんだろうな。」


 見た目はただの鎖であるが、そんなに凄いものだったであるか。

 しかしこの鎖……よく見たらボロボロであるな。なるほど、これなら縛られている側は力が出せなくても――


「ふむ、壊せると思うである。」

「おおっ!本当か!じゃあ……」

「え?しないであるよ?」


 あ、固まったであるな。まぁ吾輩が断わるとは思っていなかったんであろうな。

 だが、吾輩とて善人ではないのである。正しくは善猫であるがな!!


「取引であるぞ、ギィガ。お前が吾輩の求める物を用意できるというのであれば吾輩はお前を解放すると約束するである。」

「と、取引だぁ?……クッ!背に腹は代えられねぇ!畜生何が望みだ言ってみろ!」


 クックック、良い判断であるな。このまま連れていかれるとギィガは奴隷となりどこぞの誰かに売られるであろうな。

 奴隷になると聞いていい話は絶対無いであるからな。男であるギィガは労働力として鉱山で働かされるか、ウォーウルフであることを活かし、コロシアムのようなものに出されて見世物にされるか、というところであるか?

 まぁ漫画小説の知識であるから合うってるかは知らないである。

 もちろん吾輩だってそんなことになるのはごめんであるから、ギィガの判断は正しいである。


 さて、吾輩が求める物――それは


「飯である。あぁ、あと眠れそうなところであるな。」

「は?」

「は?とは何であるか。重要なことであるぞ!吾輩今は根無し草のようなものであるからな。とにかく寝床と飯。これらを確保したいのである。」


 吾輩がそう言うとギィガは呆けた顔から破顔し、笑い声を零す。覚悟を決めたであるかな?


「クハッハッハ!!おう、分かった!お前が助けてくれた暁には俺らの集落に案内しようじゃねぇか!!」

「フン、交渉成立であるな。よし、肩を借りるであるぞ。」


 首をかしげるギィグを置いて吾輩は跳躍し奴の肩に飛び乗り、そしてギィガを縛っている右腕の鎖目掛け跳び、異世界初のスキルを放った。

 頼りないスキル名であるが、ここで1つ試してみるとするであるか。


 猫パンチ!!


 吾輩の拳もとい肉球が鎖に触れると一瞬にして鎖は砕け散った。うわ、予想以上の威力であ……!?あかん、止まらんである!

 思いっきり力を籠めたからか吾輩の猫パンチは鎖を破壊するだけにとどまらず――


 荷台の壁まで殴り壊しちゃったである。……しかも余裕で突き抜けちゃって吾輩の手、全然痛くないである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る