ネコは異世界で闊歩する

第1話 吾輩は異世界に行くみたいである

 吾輩は猫である。名前はネコである。

 ……ん?いや、微妙に違うであるな。改めて自己紹介するであるか。

 吾輩は猫である。名前は寝子ねこである。こんな名前であるが、雄である。

 うむ、これが正しいであるな。わが友より授かった名前だ。大切にせねばな。……適当なのは置いておくである。


 さて、吾輩の今の現状であるが――死んだのである。まぁ猫にありがちなトラックに轢かれて――なのであるが吾輩、この通り意識があるのである。

 しかもどういう訳か


「あぁ~いいなぁこの肉球最高だわ~」


 何故か知らない女に抱っこされて肉球をぷにぷにされているのである。

 触られること自体は別に構わないのであるが、この女、髪の毛で目が隠れており正直気味が悪いのである。


「気味が悪いとは失礼だね。これでも私、神様なんだよ?」


 ははは、何を言うかこの女。言うに事を欠いて神様であるか。

 しかも吾輩の心の声に反応するように答えたであるぞ。……ん?吾輩の心の声に反応?


「うん、反応してるよ?いやぁにしても君、頭が良い割に猫らしい死に方したね!」


 失礼な、ほっとくのである。だが、この自称神のこの女、本当に吾輩の思った事に対して返答したであるな。あながち神というのは間違いではないのか?

 しかしとして、今の吾輩の状況である。吾輩、何故神に肉球をぷにられているのであるか?

 こやつの言った通り、吾輩、死んだ筈であるが――


「あぁ、それなんだけどね?君さ、自分が猫として異常な存在だと考えたことない?例えばその思考とかさ、視界とかさ。君、青緑以外にも色見えてるでしょ?」


 ふむ、確かにそうである。生前から吾輩は他の猫とは逸脱していた。

 彼奴等は基本「腹減った」とか「眠い」とか「遊びたい」とか単純なことしか考えてなかったであるから吾輩、少し意思疎通が面倒だったである。

 視界に関しては知らん。最初から吾輩には赤も青も緑も見えているのであるが他の猫共の視界までは見えるわけないから比べようがないである。


「でしょー?それね、実は私の手違いでさ、人間に転生させるはずの魂を猫にしちゃったんだよねーハッハッハッ!」


 凄い事言ってのけたであるな、この神。

 だが、人間になるはずの魂が猫に入っただけで人間のような視界を得たり思考回路を得たりするのであろうか?


「私も初めてのケースだったからねぇ。そんなことになるとは知らなかったんだよ。で、そこで話し戻すんだけどさ。君がここにいるのは、意識あるうちにもう一回転生させてあげようかなって。」


 転生であるか?


「そう。一つの贖罪?みたいなものだよ。君は剣と魔法であふれる新しい世界で生きてもらうつもりだ。もちろん拒否は出来るけど――」


 その際は吾輩の意識は一切消え去ると?


「そゆこと。君は0からまたどこともしれない何かに生まれ変わるんだけど……どっちがいいかな?」


 ふむ。剣と魔法であふれる世界か……確かわが友の本にファンタジーな小説が沢山あったな。

 うむ、全部読んで、実に楽しかったが……その世界に行けるのか?


「うん、まさにファンタジーな世界なんだけど……ネコくん、詳しいんだね?」


 自慢ではないが、吾輩、友の家にあった小説・ゲーム・漫画は基本的に網羅しているのである。

 というか、自分一匹で読んだりプレイもできるのである。ゲームはRPGや恋愛ゲームぐらいしか出来なかったであるが……


「何このネコくん、怖い。」


 声に出すなである。――で?転生とやらをしてくれるのであろう?


「あ、あぁ。もちろんだよ!――で、君がこれからしてもらうのは~?」


 メイキングであるか?


「なんだい、知ってるのか。つまんないなぁ……まぁいいか、じゃあほら」


 神が吾輩を抱いたまま、目の前にパソコンのウィンドウのようなものを出現させる。

 見ると、吾輩の姿が立体的に表示されているである。うむ、我ながらいい黒の毛並みである。


「君の好きなように選ぶといいよ。種族もスキルも色々見てみるといい。人間にも慣れるんだよ?あ、でもスキルは10個までね!」


 いいのである。


「え?」


 何素っ頓狂な声を上げているのであるか、神の癖に。

 神よ、お前に選んで欲しいのである。吾輩には分かるであるぞ?

 

「な、なにがかなー?」


 声、震えているであるぞ?キャラクターメイキングしたいのであろう。

 ぶっちゃけ、吾輩としては面倒であるからな。選んでくれると助かるのである。


「いや、君が良いのなら私は喜んでさせてもらうけどー。いいのかい?自分のこれからの人生に関係することだよ?」


 構わないのである。まぁ、あまりに変なスキルを入れようものなら――


「い、入れようものなら?」


 肉球触らせないのである。


「精一杯やらせていただきますぅ!!!」


 うむ、頼むのである。しきりに肉球を触るであるからもしやと思ったが……ふむ。神の交渉(脅し)に肉球は有効。寝子、覚えたのである。

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