第23話 中には何がいるである?
「少女であるか?……何故呪いを受けているのであるか?」
「申し訳ありませんが、私にも判らないのです。何分、私に少女を売った男は素性も分からない覆面の男でそいつは私に呪いの事を何も話さずただ少女を買えとしか。」
ラダンが少女を初めて見たとき、少女は目隠し、猿轡をされており、更に両腕を鎖に繋がれていた状態だったらしく、バーサクには気づかなかったのだと。
買い取った後、少女の状態を不憫に思ったラダンが拘束を解除すると――
「私としたことが、腹に重い一撃を喰らってしまいましたよ。」
軽く笑いながら自らの腹をさするラダンに弱っている様子は少しも感じられなかった。
「おや、ラダンさんはまだ衰えていないかと思いましたが?」
「フフ、嬉しいことを言ってくれますね、タオラ様。ですが私も老いぼれですよ?全盛期の様にはいきませんよ。さて、話の続きですな。拘束を解かれた少女はそれはもう暴れに暴れまして……従業員や奴隷と共に何とか抑え込みまして、地下に閉じ込めたのです。」
さながら獣のように駆け、人間離れをする動きにバーサクの呪いがかかっていることに気付いたのだとか。
バーサク……狂戦士化する呪いとは堪ったもんじゃないであるな。ただの少女がそこまで暴れられるのであれば間違いなく呪いの中に肉体強化も含まれているのだろうな。
階段が終わり、意志の廊下を進むたびにだんだんと壁ドンをする音が近くなっている。
「だからあまりお勧めできないのですよ……拘束無しに彼女を解き放つと周りのもの全てに襲い掛かる。しかしずっと拘束しなければいけない商品に価値は無い。いやぁ、あの男から少女を何の疑いもなしに購入した自分が恨めしいですよ。」
見ず知らずの男から少女を買うと決めたのはラダンであるからな、そこは同情しないである。ただ、その男とやらは本当に何者であるか?覆面をしていたという事は、正体を知られたくないという事だ。または単純に顔にコンプレックスがありそれを隠したいだけか。
気になるが今いない者の事を考えても仕方ない。今はバーサク少女である。
「呪いを解こうとは思わなかったのであるか?」
「しましたけど……私の出来る範囲では解呪は不可能でした。」
デアルカ。しかし、結論から言うと、呪いをどうにかする手立ては存在する。存在するのだが……うまく行くのか不安であるな。
「さぁ着きましたよ。」
ラダンが足を止め、一方を見るのでそれにつられて見ると、石の壁に今まで廊下になかった扉があった。そしてそこからドンドンと壁を叩く音――いや、壁を爆破するような音と衝撃が伝わってくる。
「よくこんなに強く叩かれているのに壊れないであるな。」
「いいえ?壊されているんですが、この壁、再生能力があるんですよ。完全に穴が開く前に修復するから抜け出されないのですよ。その代り直るたびに私の魔力が削れるのです。なので私今結構弱っています。」
ほーただの壁に見えるが実はいいものであったであるか。中々興味深いであるな。
さて、確認しておくであるか。
「ラダン、確認するであるが、吾輩はこの中の少女を買い取るつもりであるが、いくらであるか?」
「やはり本気ですか……いえ、止めはしませんよ。値段は小金貨5枚です。」
それでも吾輩の手持ちよりかは多いであるが、この際気にしてられん。少しでも借金が減ると思えば気分は違うであるな。
ちらりとタオラを見ると微笑みながら頷く。余裕で足りるそうであるな。
「よし、小金貨5枚であるな?もし少女が解呪されたとしてもその値段に変わりはないであるな?」
「……それは解呪できる自信がおありという事で?」
その質問には沈黙で返させてもらう。
ラダンは吾輩の沈黙が何を意味しているか察したのか、呆れたように笑う。
「はぁ……いいでしょう。仮に解呪できても小金貨5枚でいいですよ。ただしネコ様。そういうのは引き取って解呪してから言うものですよ?解呪されたからと普通の値段を吹っ掛けられる場合もありますからね。」
ふむ、そうであるか。確かにちょっと逸り過ぎたである。だが、ラダンはそれでも金額を変えることは無くてひとまず安心である。
「それではネコ様。これより扉の鍵を開けますが……どうしますか?私達も入りますか?彼女、絶対殴ってきますから、盾役にはなるでしょうから。」
「いらんである。吾輩が1人でバーサクを解呪するであるから、お前たちはここで待っているである。」
吾輩がこれからやることは秘密にしておきたい。そのためにはこの2人と一緒に中に入れるのは避けたい。バーサク少女を閉じ込めているのが鉄格子でなくて助かったであるな。
これ以上言っても仕方ないと思ったのか、ラダンは何も言わず鍵を開け、吾輩1匹分通れるか通れない隙間を空けた。
何とか無理矢理体をくねらせ隙間から中に入るとそこには……
「GRRRRRRRRRRRRR」
獣のように唸り声をあげ、口から涎を垂らした四つん這いで吾輩を睨む赤毛の少女がいた。
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