第22話 奴隷商の元を訪れるである
「何とも小奇麗なところであるな。」
「人を売るところですからね。それなりに綺麗にしていなくてはいい商品も売れないというものですよ。」
タオラの服の中から吾輩が見たものは、なんとも立派な石造の建造物だった。奴隷を売るところとなれば薄暗い通りの先にあるどんよりとしたところだと吾輩の中では相場が決まっていたが現実は違った。
大通りよりは 、少し離れているものの、その大きさはタオラの商店よりは小さいが普通の商店よりも大きい。何より大きく『奴隷市場』と看板が書いてある。……この世界では大分一般的な店なのであるな。
感心している間にタオラが大きな扉を開けようとすると、逃げるように扉がひとりでに開く。
扉の奥には背筋をまっすぐ伸ばした老人が吾輩たちを歓迎するように軽く頭を下げていた。
「タオラ様お久しぶりです。本日もお買い求めでよろしいですか?」
「えぇ、お願いしますよ。ラダンさん。」
この老人が奴隷商であるか?人は見かけによらない者であるな。もっとこう……小汚い人間がしているものだと思っていたである。
ラダンという男の後ろにつき、建造物に入ると、鋼の檻に首輪で繋がれた奴隷の姿が――無い。というかまず目に入ったのが美麗なメイドである。あっれー?吾輩の思い浮かべていたものと違う……?
「さて、タオラ様。今日はどのような品をご所望ですか?」
吾輩の動揺もよそにラダンはタオラに話しかける。……まぁまだ吾輩こやつに姿見せていないのだがな。
その時、タオラが服をとんとんと叩き、吾輩に出てくるよう合図を送るので、ひょっこりと顔を出す。
「なるほど……あなたが例の魔物、ネコ様ですか。聊か信じられませんでしたが嘘ではなかったのですね。」
おや、吾輩を見て驚かないとは、まるで知っていたかのような反応であるな。
「すみません、ネコさん。探し物が結構特殊ですから話は先に通しておいた方がいいかと思いまして……安心してください。ラダンさんは信頼できる方ですよ。」
「構わんである。」
別に吾輩の事が誰に知られようとどうでもいいことである。どうせ吾輩は捕えることが出来ないのであるからな。こうして奴隷を買いに来たのももっと自由に行動するためであるからな。
「改めてネコさん。どのような奴隷がご所望ですか?」
「安いのである。」
「これはまたざっくりな……」
呆気にとられたように苦笑いを浮かべるラダン。
だって金銭的なもの以外、希望がないであるからなー。しょうがないのである。
「じゃあ変えるである。安くて冒険者になれる年齢に達している奴隷が欲しいである。」
「そうなると――最低15歳ですね。」
ふむふむ、この世界で冒険者になれるのは15歳から……高校生程の年齢であるな。
奴隷の基本価格は、美醜や健康状態を除くと、成人男性≧成人女性>少年=少女>老人≧幼児と言った具合に値段が変わるらしい。
これは奴隷の大半が力仕事を任されることが多いため、成人男性の価格も上がるのだとか。成人女性は娼館に需要がある。それ以下の者を買う人間は少ないのだとか……まぁ好き好んで老人買うものはいないであるな。
「そうですね。普通の15歳の少年少女だと安くて金貨2枚となるのですが。」
安くて金貨2枚だと!?吾輩の持ち金を大きく超えているではないか!タオラからいくらか借りれるとはいえ……あまり高い買い物はしたくないであるな。
「それ以下はいるであるか?」
「――いるか、いないかで言えば……います。」
ほう、それならば話は早いである。
「ですが、その商品は少々欠陥と言いますか……あまりお勧めできないのです。ネコ様の安全のためにも」
ん?欠陥があるから安いというのは分かるであるが、それでも売りたがるものではないのか?ラダンの表情が堅いことから騙しているようではないであるが……気になるであるな。
「ふむ……まずは一回見てみたいである。いいであるか?」
「……そうですか。分かりました。では、こちらにどうぞ。」
ラダンの後に続くと、案内されたのは地下へと続く階段であった。
タオラでさえ、この階段は知らなかったようで、緊張感からかその目は真剣な物へと移り変わる。
む?何やらタオラやラダンが歩く以外の音が聞こえてくる……?こう、ズドンズドンとぶつかるような音であるな。
「ネコ様。タオラ様。先に言っておきます。私たちが今向かっている奴隷は――バーサクの呪いに罹った1人の少女の元です。この音は彼女が壁を殴りつけている音なのです。」
呪いであるか?
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